Episode11 -5 ページ36
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「はい。というか俺、今まで女性にあんまりお金使ってなかったんで」
「え？でも…」
「Aさんは別です。すごくすごく、好きな人ですから」
「っ」
しまった。
まさかそんなことを言われようとは夢にも思っていなかったわけで、私は思わずむせそうになるのを何とかこらえる。
どうしてこう、二宮さんはそういうことを当たり前の顔で言うのだろうか。
私が赤くなった顔をどう誤魔化そうかと考えていると個室の扉が開いてウエイターがワゴンを押して入ってくる。
乗っているのは前菜のようだ。
助かった。
そう思いながら私はグラスを端に寄せる。
幸いそこで話はそれて、気が付いた時には仕事の話になってしまったのだった。
「Aさん、へこんでます？」
「う……」
「あ、すみませんデリカシーなかったですね」
「いやそんな、事実ですし」
私は気落ちしながらそう答える。
「失敗なんて誰にでもありますよ。俺も経験ありますし。必要な資料消しちゃったこと」
私を励まそうとしてくれてることがよくわかる。
その気持ちが嬉しくて私は笑顔を浮かべた。
「もう大丈夫です。片付きましたし」
「でも、ちょっと弱ってる感じですよ」
言いながら二宮さんはメインディッシュのポワロを口へと運ぶ。
それを飲み込むと、グラスに手をばして、その手を不意に止めて私の方を見た。
「弱ってるAさんも、可愛いですけどね」
「え…」
「ふふ。すみません。でも、元気な方がもっと可愛いですよ」
耳まで赤くなるのを感じながら私はワイングラスに手を伸ばして照れをごまかす様に一気に飲み干したのだった。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年7月10日 15時
