Episode8 -8 ページ16
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そこで聞きなれた智兄さんの声がする。
振り返れば智兄さんが駅のコンコースに姿を現したところだった。
「残念、王子様のご登場ですね」
「え、兄さんがですか？」
「ええ。シンデレラを守る騎士でもいいですけど」
冗談を言いながら二宮さんは智兄さんがやってくる方に目を向ける。
兄さんは小走りで私のところまでやってくると一緒にいる二宮さんに気が付いてひょこりと頭を下げた。
「どうも」
「はじめまして、二宮と申します。Aさんには大変お世話になっております」
ビジネスライクに頭を下げると二宮さんは言う。
智兄さんは「お噂はかねがね」なんて曖昧な言葉を吐き出した。
「こちらこそ、妹がお世話になっています」
「それでは俺はこれで。Aさん、また明日の会議で」
「はい。…あ、待ってください二宮さん」
「？なんですか」
視界に智兄さんが持っている傘が目に入って私は二宮さんを引き留めた。
智兄さんの手から傘を奪い取って二宮さんに差し出す。
「おいA」
「いいでしょ、折り畳みもあるし。二宮さん、これよかったらどうぞ」
「え、でも…」
智兄さんが険しい顔をしているか二宮さんの目は私と兄さんを行ったり来たり。
けれど私は兄さんを無視して傘を二宮さんの手に押し付けた。
「はい。これなら雨に濡れませんよ。……風邪ひかないか心配ですから」
カーディガンの端をもって揺らすと二宮さんがふっと相好を崩す。
「そういうことでしたら、お言葉に甘えます。明日お返ししますね」
「はい」
傘を持って二宮さんが改札の中へと入っていく。
手を振って最後までそれを見送った。
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2020年7月10日 15時
