08−白銀の狼 ページ8
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どんな感情も放っぽって何よりも先にそれが出た。
目の前の彼に聞こえたのか、見える牙の剥き出しが一層濃くなる。
オオカミがこの西の森にいるなんて。おかしい。
本当ならこんな暖かい森になんて住まない筈。
オオカミは寒い北か南の森に居る。
それに…。
「貴方…一人なの?」
私が見たオオカミはいつも群れで行動していた。
このオオカミは単独でも平気なくらい狩りが優れてるの?
…いいえそんな事ない。だってよく見れば彼、ものすごく痩せ細ってる。
「可哀想に、貴方はぐれたの? こんなに痩せて…待ってて、私が食べ物を持ってきてあげる」
警戒心の強いオオカミに言ってもだめかもしれないけれど、こんな状態の動物を放ってなんておけない。
急いで屋敷まで戻って、忍び足で台所へ向かい、処理された家畜のお肉を2羽抱えて元来た道を戻った。
「はぁっ…はぁ…居ない…」
全速力で走ってきたつもりだったのに、彼はもう居なくなっていた。
静かな夜の森で一人立ち尽くす。
_ガサッ
…確かに、湖畔の方で音がした。
それに、微かな唸り声も。
「…っいた、オオカミさん!」
湖畔にはオオカミさんがそこに浸かって暴れていた。
水遊びをしているようには見えない。
…口元には、魚。ああ、そうか。
彼は今までお魚を食べて食い忍んできたんだ。
彼の体はお肉が必要だというのに。
「オオカミさん。食べ物を持ってきたの。食べて」
「ヴー…ッ」
「平気よ。私は貴方を傷つけない。お魚だけなんて死んでしまう」
地面にお肉を置いて少し距離をとってもまるで近づかない彼。
それに全然声が聞こえない。会話も出来ない。
それでも、私は彼を助けたい。
「私が気に食わないなら噛み殺してもいいよ
だけどお願い、それだけは食べて。貴方に死んで欲しくないの」
彼の鋭い呂色の瞳が若干見開かれた、気がした。
それから彼は水から上がって、ゆっくりとその肉に口をつけると_。
「…俺は、生肉は食えねェ…」
「…!?」
確かにその口から人間の言葉を発したのだ。
今までの動物達とは違う。動物語なんかじゃない、はっきりとした口調。
あまりにびっくりして、腰が抜けた。
「…腹、空いてんだ。コレ食わせろ」
「っ…わ、わかった」
もう1度彼の口から人間の言葉が紡がれた時、我に返って立ち上がる。
そうだ、彼に食べてもらわないと…。
心臓が口から飛び出そうだった。
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えん - 実弥推しだったので、すごく嬉しいです!リクエストできるなら、白雪姫の夢主と王子の実弥、鬼滅キャラの七人の小人、見てみたいです! (2021年6月3日 20時) (レス) id: dfa45071da (このIDを非表示/違反報告)
まゆまゆ(プロフ) - 実弥オオカミ!素敵です!リクエストしたいです!何だっけ?獣の子?の主人公を女にして師匠を実弥に、で恋物語に…それかオオカミ子供のアメとユキ?かジブリのハウルパロディ、もし叶うなら小芭内をお願いしたいです、玄弥、小芭内のお話ラブなのがなかなか無いので (2021年3月13日 14時) (レス) id: 442319c796 (このIDを非表示/違反報告)
めあり - 鬼滅版シンデレラですね (2021年2月14日 4時) (レス) id: ca5a6634ce (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - 湯海さん» 湯海様、最後までご愛読ありがとうございました!沢山うんうんと悩んだ結果の役ハメでしたので、そう言って頂けて努力した甲斐がありました…!この作品での実弥王子は本当にまっすぐでありながらもあざとかったですね……それすらも愛おしい(錯乱) (2020年11月30日 17時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ayaさん» コメントに気付くのが遅くなってしまいました、すみません!aya様、こんな所にもコメント残して下さってたんですね…!ありがとうございます!aya様を幸せにする小説を作り上げることができて嬉しいです(^^) (2020年11月30日 17時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2020年5月31日 17時