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幸いにも、男の方へ流れた敵兵は少なかった。
ひたすらに中距離から銃弾を撃ち込む。
だが建物内に響く銃声が自分のものしかないことに、男の表情は険しかった。
階層を変え、数少なくなった兵士を仕留める。
物音の消えた建物で先程別れた相手の姿に、無線機を外して、怒ったような声を上げた。
nb「…涼太」
dt「悪かったよ。でも、翔太の方が少なくてよかった」
nb「そういうことじゃない」
dt「翔太だって、これからでしょ」
nb「俺は」
dt「よくない」
nb「…合流後は」
dt「使わない。巻き込みたくないからね」
nb「ならいい」
dt「翔太もだよ」
nb「気を付ける」
上って来た階段へ戻ってゆく後ろ姿をじっと見送って、再び無線機を着ける。
無線の先では銃声と笑い声が聞こえる。
声の主は残念なことに容易く検討がついて、行かなくてよかったと心底思った。
nb「阿部ちゃん、今いい？」
ab「終わった？ってことは舘さんもだね。南から本棟2階、狙える？」
nb「余裕。康二のところは？」
ab「あー…必要。ごめん、数減らしたらそっちも頼みたい」
nb「了解」
ru「阿部ちゃーん！こっち今見れる？」
ab「今見る！翔太、頼んだ」
返事の前に、別の要請が入る。
騒がしさの増した仲間達の声に男は思わず小さく笑って、指定された場所へ荷物を下ろす。
背負っていたライフルケースから愛用のスナイパーライフルを取り出した。
男は無言のまま、先程の銃撃で割れたであろうガラス張りの小窓へ寄った。
愛銃を固定して、取り付けたスコープを覗く。
まだまだうるさい無線の奥は、男の障害にはならない。
視界に捉えた敵兵は援軍だろうか。本棟へ一直線に向かっている。
nb「…ばーか」
先頭の人間へ照準を合わせ、スコープを覗いたまま口の中で言葉を呟く。
同時、その兵士が動きを止めて
抑えられた銃声の直後、身体が崩れた。
続く敵兵は、狙われていることに漸く気付いた様子で辺りを見回す。
nb「…あ、なんだ。見えんじゃん」
顔を上げ、男が呟く。
逃げ出す者はいない。否、逃げられないのだ。
仲間が次々と倒れていくのを、呆然と見ていることしか出来ない。
自軍の領地だからと油断したのが悪いのだ。
最後の男は頭を撃ち抜かれる直前、漸くそのことに気付いた。
nb「阿部ちゃーん、次は？」
渡辺翔太
「S」の狙撃手
彼は誓う。
それは何があろうと、決して途切れはしない。
たとえそれが、彼を縛るものになるとしても。
能力名「Lock」
代償「＿＿＿＿」
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作者名：しあ。 | 作成日時：2020年9月29日 19時
