４４ ページ45
.
「俺達は良いから、この人だけ頼む」
「えっ」
ベックがそう言って俺を男の前につきだした。
「あんたはもう少し身なりを整えろ」
「何で俺だけ」
「あんたがやってもらって金払わないとここに来た意味ないだろ」
ジェシカはAの分はタダで良いと言うし、ぞろぞろ店に来といて一人も金を払わないのも確かに悪いか……と思い仕方なく促されるまま席に座る。
「髭も剃りますか？」
「いや、大丈夫だ」
「少しは整えてくれ」
「かしこまりました」
「……おい」
断った俺を無視して勝手に返事をしたベックを睨むも、奴は知らんぷりだ。
もうどうにでもなれ。
俺達の様子に控えめに笑みを浮かべた男は、ハサミを手に取ると素早く伸びた髪を切り揃えた。
「こんな感じでいかがでしょうか？」
「悪くないな、ありがとう」
「いえ、ではこちらにどうぞ」
シャンプー台へ向かう途中でAの後ろを通りすぎると、髪を短くしたことがなくてよく分からないとまだ悩んでいた。
胸の下まであるくらい髪が長かったのだから、何年も切らずに伸ばし続けていたのだろう。
それを切るほど気を遣わせてしまったことに申し訳なさが沸き上がった。
「それでは流していきますね」
髪を洗い流し乾かされると、サラサラかつ艶のある髪に仕上がった。
髭も丁寧に整えられ、ちゃんとした服を着ればそれなりに見えるような気がした。
Aよりも早く終了した俺はソファで待っている間、ヤソップにからかわれながらAの様子をチラチラと伺っていた。
ジェシカと楽しそうに会話するAを見ながら、この島で彼女を降ろすのも有りかもしれないと一瞬考えてモヤッとした。
「お待たせしました」
少し気恥ずかしそうなAの髪は綺麗に切り揃えられ、丁寧にブローされ艶々と輝いていた。
「似合ってる」
「ありがとうございます」
ベック達にも褒められ嬉しそうなAを見ているとジェシカに手招きされた。
「いつまでこの島に？」
「あと2〜3日かな」
「なら明後日にまた寄ってもらえる？あの子に渡したいものがあるの」
彼女の言葉に頷き、金を払って店を出た。
歩く度にAの髪から良い香りが漂い鼻を擽る。
俺につけられたものより少し甘めの香りに、自由にお洒落することを我慢させていることが改めて申し訳なくなった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 998人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
ちょこ(プロフ) - planetbluep379さん» ありがとうございます！月末までバタついているので更新遅くなりますが気長にお待ちくださいませ🙇♀️ (2022年9月15日 10時) (
レス) id: b37865d1d3 (このIDを非表示/違反報告)
planetbluep379(プロフ) - 続き待ってました✨嬉しい！頑張ってください😁 (2022年9月14日 9時) (レス) @page43 id: 6277eb3c9f (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ(プロフ) - シンヤさん» ありがとうございます！ (2022年9月6日 16時) (レス) id: b37865d1d3 (このIDを非表示/違反報告)
シンヤ(プロフ) - 続きとても楽しみにしています😊 (2022年9月6日 0時) (レス) @page39 id: 42d6be6a70 (このIDを非表示/違反報告)
ちょこ(プロフ) - 白雪さん» はじめまして、コメントありがとうございます。お話は順次公開していきますので気長にお待ちください🙏 (2022年9月2日 17時) (レス) id: b37865d1d3 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：ちょこ | 作成日時：2022年7月7日 23時
