【DQ11】亡国の悲劇

嵐の前の静けさ ページ43

「父さん」

鎧を脱いだ軽装で、書庫にいる父さんに声をかける。

「Aか」

父さんは本にしおりを挟んで、振り向いた。奥の窓からは涼やかな虫の声が聞こえてくる。

「読書中にごめん。あのさ、やっぱり私嫌な予感がするよ」

「勇者が生まれ、そのお披露目も兼ねた四大国会議……か。各国の王が一つの国に集まるこれ以上ない規模の行事に、何かが起こると？」

強く頷くと、父さんは顎に手を当てて考え込み、そうだなあと小さく零した。

「まあ、起こるだろうな」

「……何か、何か打つ手はないのかな。最近、魔物の被害も少なくなった……それは、別に魔物との取引がユグノアで主流になってきたのだけが原因じゃないと思うんだ」

半年程前、王が発令した“対魔物取引安全保証条約”。少しの反発もあるにはあったが、アオイム、キイメ、ミドンジャと私の活躍を同時に大っぴらに公表した国は、人と魔物の共存が可能であることを示した。

それからはあの３匹も魔物の姿のままで、広場の子供達と遊んでいたようだ。たまにいらっしゃるマルティナ姫が、それを見てやきもちを焼いた時はご機嫌取りが非常に大変だった……。

……と、思考が逸れたな。

「じゃあ、他には何が原因だと思うんだい？」

「魔王の存在」

「……魔王が軍勢を整えるために、野生のモンスターを引き入れていると？」

「その可能性も大いにある。歴史書を読めばバンデルフォン王国は、国のトップが魔物に操られて滅んだと書いてあったわ。ユグノアを攻めた混乱に乗じて、何か仕掛けてくるに違いないの」

半年掛けて考えた事を、父さんに全て伝える。私の予想ではあの時会った魔人は魔王と成り得る存在であり、今まで狡猾な手段を用いて人間界を侵食していたのだろう。バンデルフォンの崩落がいい例だ。

「……Aの考えはよく分かった。四大国会議には私も招待されている。Aは護衛として呼ばれるだろうから、私は内部を隈なく探して手がかりを見つけよう」

「……気をつけてね、父さん」

「なに、昔はあのジエーゴと肩を並べた程の剣豪だぞ私は。魔王くらい指パッチンで倒して見せるさ」

それは無理があると思うけど。

でも、そう言って豪快に笑う父さんに、私の不安は一気に払拭される。


そして、もし最悪の事態になっても、勇者だけはこの手で守り抜いて見せると、そう硬く誓った。

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