【DQ11】亡国の悲劇

思惑 ページ11

「……A、今は王が催して下さった宴を楽しむのが先決だ。考えるのは後にしよう」

王が去った後、いつまでも動かない私を見てグレイグが肩に手を置き顔を覗き込んで来た。

「……あぁ、うん」

返事をすると、彼は薄く笑い、軽く手を振ってから奥へ向かって行った。ホメロスも去り際に私の頭にぽんと手を置くと、そのまま行ってしまう。

あの魔物三人は気付けばいなくなっていた。きっと何処かでご飯でも食べてるんだろうと思い、私もご馳走が並べられた卓に行くと、お皿を取って料理を入れよう……と、したのだけど。

……そうだ、左手が動かないんだった。

仕方なく全ての作業を右手で終わらせる。近くの壁際の席にお皿を持って行き、静かに食べはじめた。

「……」

右のほうに視線をやると、グレイグが兵士や有力貴族と思われる人達に囲まれている。

左のほうに視線をやると、ホメロスが給仕の女性やご婦人、令嬢がたに囲まれていた。

二人の人気はユグノアでも揺らがないのね。少し嫉妬混じりにそう思っていると。

「……あの、少し宜しいでしょうか」

「はい」

若い男性に声をかけられ、顔を上げる。明るい茶髪に透き通るようなエメラルドグリーンの瞳が印象的な人だった。あちらは親しげにしてくれるが、あいにく私は彼のことを知らない。

誰だろう。

「申し遅れました。私はムーア小国の王子、アザレアと言います」

「……あ、これは大変失礼を。ユグノア国騎士団長、Aと申します」

私は慌てて立ち上がり、一礼した。

「Aさんは水龍討伐の後でお疲れでしょうから、どうぞお座りください」

お言葉に甘えて腰を落ち着けると、アザレアさんは私を見てニコニコ笑う。

「……あの、何か私の顔についてますか」

しおかぜ草のシチューを食べた後だから白ひげができてるかもしれない、とナプキンで口を拭く。

「いえ、噂通りお綺麗な方だなと」

「……は」

私が、お綺麗だと？

そ、そう言ったのか彼は。

私は鍛錬に一切手を抜かないから、鬼の騎士団長とよく兵士に噂されているのを知っている。

何がどうひっくり返ってそんな噂に行き着いたのだろうか……。

ぽかんとしていると、アザレア王子は白手袋に包まれた手を私の右手に重ね、耳元に顔を近づけ、


「アザレア王子、少しよろしいか」


「っ……これは、軍師ホメロス殿」


ホメロスがやってくると、アザレア王子は私を一瞥してから逃げるように行ってしまった。

嫉妬と→←宴の用意

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す