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午前4時台の電車は人がまばらだった。
まだ日が昇りきっていなくて、意識も完璧に覚醒していないような気がする。
眼が覚めると、俺にがっちりと絡みつくようにしてAは寝ていた。「おい、始発で行くんだろ」と肩を叩くと、細長い手足をするすると解いて何事もなかったかのように体を起こした。
しかし、あれだけ密着していたのに、ホテルを出るときも暗い外へ出るときも、一定の距離を保って特に会話もなく歩いた。
思えば、あれが最後の「甘え」だったのかもしれない。
涙ながらに「もうしないから」と訴えるあの声が、頭の中で反響した。
横を見ると、ぼーっとした表情で電車に揺られるA。
どういう気持ちなのか全くわからない。
家に帰らなければいけない虚無感か、昨日したことの後悔か、はたまた何もないのか、それ全てか。
Aの最寄駅のホームに電車が乗り入れると、何も言わずににスッと立ち上がる。
この早朝に若い女の子を1人で歩かせるのは、と思い俺も立つと、Aは不思議そうな顔をしてこちらを見た。
「駅、違うでしょ」
「送ってく」
「別にいいよ、そういうの」
「……黙って送られてろ」
ちょっと強引に言いくるめると諦めたのか、俺より先に電車から降りた。
早朝の住宅街は静かで、ランニングに勤しむどこかの父親ぐらいしか人もいない。
「本当に、優しくしないで」
「離れられなくなる」
「高橋くんはもっと違うことに時間を使ったほうがいいよ」
きっと、どれも本心だ。
家の前まで来ると、さすがにその先には行けなくて俺の脚が止まった。
「じゃあ、また学校で」
「……ごめん、ありがとう」
別れを告げて、玄関に入っていく。
一瞬、ちらりとこちらを見た気がした。
泣きそうな顔で、こちらを見た気がした。
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作者名：あり | 作成日時：2019年3月21日 17時
