ページ79 聖王 ページ32
新たな聖王…その名はルキナ。
王というよりは女王なのだが、古来からの習わしで皆は聖王と呼ぶ。
聖王には、聖王の血を引くものしかなることができない。
そのため、15年前のあの日から。
聖王の血を引く大人がいなくなったあの日から、ルキナは2歳にして聖王となった。
その宿命はあまりに重い。
しかし彼女はめげなかった。
父を殺した邪竜を倒すために剣術を磨き、知識を蓄え、作戦を練る。
彼女に、肉親はいない。
父は殺され、叔母も殺され、母は行方知れず。
使用人の中にも、真実を知る者はいない。
その邪竜の依代となったのが自らの母だなんて知ることもなく、彼女の憎しみは膨れ上がる。
そして今、彼女は戦っていた。
「やああっ！くっ…諦めないでください！」
父に似た勇ましさで、母に似た賢い頭脳で、仲間を導く。
戦っているのはギムレーの送った屍兵。
この長く続いた侵略で、屍は多く増えた。
ゆえに、ギムレーの操る死体の数も増えたのだ。
状況はルキナたちが不利になるばかり。
それでもルキナは諦めない。
「サスガハ聖王、カ？…ククッ」
「！！」
そろそろ頑張ったルキナたちに救いを……あの世に送る行為を……してやろう。
そう考え、ギムレーは竜の体を連れてルキナたちのいるイーリス城にやって来た。
これは慈悲などではない。
ただ破壊欲を満たすための虚しい行為。
例えそうだとしても、ギムレーにはわからない。
憎しみに満たされ狂った心では、事の恐ろしさを感じることもできない。
「あ……お前が…邪竜、ギムレー…！」
ルキナは少し怯えたような瞳で竜を見つめる。
王城の破壊された壁から、大きな邪竜の目だけがこちらを覗き込んでいた。
赤く、不気味に光る瞳。
ルキナと共に戦っていた兵たちも震え上がり、腰を抜かして後退する。
「ルキナ…オ前ハ母ヲ覚エテイルカ？」
「な、なにを…」
「会ワセテヤロウ…今ココデ」
ギムレーは魔法陣を自らの立つ竜の背に描き、ルキナの前に出現させる。
そこから瞬時に移動すると、ルキナは驚いた様子で目を見開いた。
「…ルキナ」
「…！？…そ、そんな…これは…！」
周りの兵たちの制止も聞かず、ルキナは一直線に東側の通路へと駆け込んだ。
ギムレーもゆっくりとついて行く。
道を阻む者はすべて貫いた。
ルキナが息を切らせて駆け込んだ先。
そこには…一枚の大きな絵があった。
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作者名：すぃふる | 作成日時：2016年7月9日 15時
