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ページ76 助ける ページ29

__いよいよこの時が来た。

半月というのは自分にとって人間の1分にも満たないはずなのに、とても長く感じられた。

国境に立たせてある屍の目に進軍するリズたちの姿が映った。

屍と感覚を繋げることで、まるで目の前に彼女らがいるように見える。

彼女らは山を下り、野を進み、ギムレーのいるところへやってきた。


「Aさん」


祭壇の玉座に座ったギムレー…Aの姿を見てリズはその名を呼ぶ。


「…来てくれましたか」


ゆっくりと腰を上げ、リズたちの足元の魔法陣に向かい魔力を注ぐ。

地響きを立てながら、床が盛り上がる。


「なっ…何これ…!」


床から姿を現したのは硬い鱗。

大きな胴体。大きな翼。長い尾。

それは言葉では表せないくらい、大きな竜の体であった。

その場にいたイーリス全軍を背中に、自分を首へと乗せて、翼を大きく羽ばたかせる。

ぐんっと下に引きつけらるような強い重力を感じ、直後天井を突き破り外へと飛び出した。


「きゃあああっ!!?」


頭を抱えるリズを、フレデリクが庇う。

他の者も互いを庇い合い、揺れに耐えた。

揺れが収まり、前を見てみれば。

そこには武器を掲げる屍の兵。


「彼らは皆、あなた達の国民ですよ。…さぁ、彼らを倒してここまで来て見せてください」


「グアアアッ…!!」


リズが魔道書を拾い上げて構える。

魔道書…?

改めてリズの姿を見てみれば、以前とは全くの別人となっていた。

その身にまとうのは、亡き姉エメリナが来ていたものと同じ賢者のローブ。

髪飾りを付け、髪を下ろしたその姿は、本当にエメリナと見間違えるほど似ていた。

変わっていないのは、その声と優しい心だけ。

顔に幼さは残らず、王族としての威厳を感じさせる佇まい。


「みんな、行くよ!敵の頭と心臓を狙って!」

「はっ!」

「落ちないように気をつけて!…怖くなんてない。私たちの国を守るために!」

「うおおー!」


大したものだ。あのひ弱なリズがよくぞここまで。

さすがは聖王の血を引くもの。

自分…いやAの愛した者の兄妹。


「風刃よ……ウインド!」

「リズ様、兵たちは彼らが引き受けます。私と共に早くA様のもとへ…!」

「うん!行こう…!」


リズはフレデリクの馬に飛び乗り、ギムレーのもとへと駆けつける。

姿を見たとたん安心したようにリズが笑った。

こんな状態で笑うなど…。


「Aさん…助けに来たよ」


残念だな。

こちらはお前たちを殺しに来たのだ。

ページ77 殺す→←ページ75 銀のリング


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作者名:すぃふる | 作成日時:2016年7月9日 15時

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