会いたくなかったはずだった ページ3
「A」
甘みを含んだ、記憶より少し低い、声。
聴覚記憶は視覚記憶よりはるかに消えるのが早い。そんなこと分かっている。
それなのに、どうして、こんなに覚えているのだ。こんなに、分かってしまうのだ。
「A、」
足を止めてしまった私の腕を、怖々とした雰囲気で掴む。あつい、てのひら。
くっと喉奥が狭まる。口の中に広がっていた甘さが消えて、ベタつきさえも忘れて。彼の手のひらの熱だけが、私の感覚として確かなものだった。
「久しぶり、だね」
重たそうな荷物を背負っていて、私をつかんだ手とは逆の方で黒いマスクを下ろす。変わらない、小動物のような口元。
「……ジョングク」
「うん」
「……おかえり」
「ただいま」
目尻にきゅうっとしわがよって、心臓は締め付けられる。
会いたくなかった。はず、なのに。
私、高揚してる。
するりと手は解かれたのに、掴まれたところがまだ熱を持っていた。
「家帰るところ？」
「うん、」
「一緒に帰ろ。隣だし」
「うん」
のんきに鼻歌なんて歌って。
ああでも、今の彼のことを考えると、その鼻歌でさえみんなが悲鳴をあげる。
そんな遠い人が、今私の隣を歩いている。変な感じだ。
私にとっては生まれた時から幼馴染だけれど、世界中の女の子が私の立場を羨んでいる。
遠くなったとは思うが、たとえジョングクが世界を股にかけるアイドルだとしても私にとっての彼への認識は、「なんだか遠くなった幼馴染み」だった。
もう呼び方も話し方さえも忘れてしまうくらい長い間彼とは会っていなかったが。
「ツアーおつかれさま」
「あ、知ってたの？ なんか嬉しい。ありがとう」
「友達、armyだよ。しゅがさん、が好きなんだって」
「あー、ユンギヒョン。喜びそう。伝えとく」
他愛もない話をしている中で、視線を感じてずっと前を向いていた視線を彼に向けた。すると、彼が見ていたのは私ではなくアイスだった。なんだ、恥ずかしい。
「一口いる？」
「いいの？ 冷たいの食べたくて」
「どーぞ」
てっきり棒を取られると思って手をジョングクの方にやったのに、棒を持つ私の手ごと上から握り、そのまま彼はかぶりついた。
こいつ、は、無自覚で一体何人の女を落としてきたんだ！
「ごちそうさま」
「うん」
変に高鳴った鼓動を抑えるように最後の一口をかぶった。
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ちよ(プロフ) - よるさん» 完結までありがとうございました！ 私自身恋愛がよくわからなくなっているので、それをそのまま描いちゃった感ありますね笑 次作はいまユンギさん準備中……です！たぶん！（）雰囲気が少し変わりますが頑張ります、ありがとうございました！ (2020年6月2日 13時) (
レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
よる(プロフ) - 完結おめでとうございます！！！！最後まで面白かったです！恋愛とは定義が難しいですよね！！！相手に依存しすぎない距離感の書き方が素晴らしかったです！次の作品も期待していいですか？すごく面白かったです！！！体調に気をつけてください！ (2020年6月1日 17時) (レス) id: b117263756 (このIDを非表示/違反報告)
ちよ(プロフ) - よるさん» いえいえ！ コメントは励みになります（ ; ; ）！グクが幼馴染みちゃんをどう思っているかという視点をどうしても書きたくでぶっこみました！笑 ありがとうございます、今日大量更新の予定なのでお待ちくださいませ！ (2020年5月24日 9時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
よる(プロフ) - また感想書いちゃってごめんなさい！JKの、彼女を表す言葉は多すぎる、がとても最高だったっていうのをお伝えしたく！！もちろん、全部最高なんですけど、個人的に今回のはグッと来ました！またのお話楽しみに待ってます！！体調に気を付けて！！ (2020年5月24日 9時) (レス) id: b117263756 (このIDを非表示/違反報告)
ちよ(プロフ) - なむさんさん» ジョングクのようなキラキラした人の幼なじみってきっといろんなタイプの人がいると思いますが、憧れは誰しも抱きそうだな、と思って色々葛藤するヒロインちゃんにしました！ 心と向き合うこともテーマなので、コメント嬉しいです！見つけてくださり感謝です（ ; ; ） (2020年5月15日 16時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ちよ
| 作成日時：2020年5月10日 19時
