させてはいけなかった ページ34
ヘルプに入ったものの、火傷をしたメイクさんは幸い程度は酷くはなかったらしく、次の日からは復帰できそうだった。
心の中でずっとユンギさんの言葉と手を離そうとしなかったジョングクの顔が残っていたけれど、その日は死んだように眠ってしまった。
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朝起きて急いで家を出て事務所に行く。
テーブルのところに荷物を置いて息を吐いて、重たいまぶたを必死に瞬かせた。熟睡はしているけど中々体の疲れは取れないようでかなり眠たい。
「A大丈夫? あれ、今日すっぴん?」
「大丈夫。……あー、そう。時間なくて」
「あんた上手く隠してたね。クマすごいよ」
「隠してた……ああ、グクこのこと言ってたのか」
チェヨンに突っ込まれたことでジョングクの言葉の意味がわかってほっとした。よかった。気持ちのことじゃなかった。
「今日も掛け持ち?」
「いや、今日はこっちだけかな。もう掛け持ちもしなくて良さそうな感じするし」
「あ、ほんとに? いったん休みもらいなよ」
そうさせてもらう、と返して今日使う道具を用意する。
今日彼らは特典の最後の撮影で、そのあとは全てパフォーマンスの練習らしい。私も午後からは休みだ。
「おはようございます〜」
「おはようございます」
ぱたぱたと楽屋の雰囲気が一気に賑やかになる。人が増えるだけで空気というのは変わるものだ。
「ヌナ、おはようございます」
「おはようジョングク。今日寝癖ついてないね」
いつもぴょんぴょこ跳ねているグクの髪はストンと真っ直ぐで、全体ががよく見るまんまるい頭になっている。
上手く眠れたのだろうか。うまい眠り方なんて知らないけれど。
「……こうしたらヌナの負担減りますか?」
眉尻を下げ静かに微笑んで、ジョングクはそう言った。
冷水を頭から浴びたように血の気がざっと引いて、鉄パイプか何かで殴られたような衝撃が体を走った。
寝癖を直すのだって私の仕事だと、彼は分かっているのだ。その上で私の負担を減らすために少しの時間だとしても彼の時間を削らせてしまった。
そんな気を遣わせてはいけないのに、そうさせてはいけなかったのに。私は、彼に「そうしなくては」と思わせるような顔をしていたのだろう。それがもう情けなくて情けなくて。
「……ご、ごめんなさい」
泣こうだなんて思ってなかったのに、ぽろっと涙と謝罪の言葉が溢れてしまって、途端意識がふつりと途切れた。
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めぐみ(プロフ) - はぁ………とため息が出るほど、ちょっと目の奥が熱くなるような感覚を知るほどに素敵な作品でした、ありがとうございます(;;)みんなすごく心が優しくて、読んでいて私も優しい気持ちになりました。もし番外編など、浮かびましたらその時をまた楽しみにしています! (2022年3月15日 19時) (レス) @page43 id: 70e57b3fd4 (このIDを非表示/違反報告)
mii(プロフ) - 好きー (2021年8月18日 8時) (レス) id: d47eb74ff4 (このIDを非表示/違反報告)
ちよ(プロフ) - ひろさん» ありがとうございます! ラストはしりすぎたかな? とちょっと心配だったのでホッとしました( ˘ω˘ ) 続編は今のところ考えてないです( ; ; )すみません( ; ; ) 何か浮かべば番外編を書くかもなあというくらいで……コメントありがとうございました! (2019年12月19日 23時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
ちよ(プロフ) - じゅりさん» ありがとうございます! 私自身続編系???となってましたがなんとかおさまりまして……笑 次の作品はかわいい控えめかもしれませんが、がんばります! (2019年12月19日 23時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
ひろ(プロフ) - ラストの展開、キュンキュンしながら読ませていただきました!面白かったです!続編楽しみに待ってますね! (2019年12月19日 18時) (レス) id: 099739feed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちよ | 作成日時:2019年12月8日 16時