魔法使いは彼の方 ページ32
リップを塗るだけだ。目を瞑る必要はない。けれど、ジョングクに言われてそっと視界を闇の中に仕舞い込んだ。
自分がいつも使う言葉だからうつってしまったのだろうか。いざ言われてみると感覚は確かに変わるなと感じた。
うん、少し──ドキドキ、する。
ひやりと冷たいリップが当たる。彼にリップを塗られるのは最近慣れてきたはずなのに、視覚がないからか変にソワソワしてしまった。
「……うん、できました」
そろりと目を開けて鏡を見ると、いつか教えたグラデーションリップになっていて、胸がぐわっと熱くなった。
覚えていたのか。口頭で、しかもあんな雑な言葉を。
お礼を言おうと視線をからませると、ジョングクが綺麗に微笑んで私の頬に触れるから、言葉がさらりと消えてしまった。
幾多もの光を閉じ込める瞳は、今私のことしか見ていない。
「かわいいです、ヌナ」
「っ、あ、ありがとう、」
「ははっ、照れてる。ヌナも僕たちの気持ちわかりましたか?」
世界中の女の子を恋に落としてしまう整った顔と、甘い声。どんな年の人もきゅっと胸を掴まれる魅力的な笑顔。とろけそうな、蜂蜜みたいな瞳。
私が彼らに言うのと、彼が私に言うのとじゃまったくもって違うのだ。ジョングクが笑うだけで人は彼に恋に落ちる。彼はそれを、まだ分かっていないのだろうか。
「……ヌナ、上手く隠してるけど……」
「ジョングク……?」
手のひらが頬から目元に移る。親指がそろりと触れそうになった、とき。
「移動お願いしまーす」
ノックの後楽屋があいて、スタッフの人が呼びに来たからジョングクの手は不満げに離れていった。
何を言おうとしたのかわからないけれど、隠してる、ってなんのことだろう。……気持ち、とかじゃないよね。
モヤッとしたまま、何もないフリをして化粧道具を整理した。
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めぐみ(プロフ) - はぁ………とため息が出るほど、ちょっと目の奥が熱くなるような感覚を知るほどに素敵な作品でした、ありがとうございます(;;)みんなすごく心が優しくて、読んでいて私も優しい気持ちになりました。もし番外編など、浮かびましたらその時をまた楽しみにしています! (2022年3月15日 19時) (レス) @page43 id: 70e57b3fd4 (このIDを非表示/違反報告)
mii(プロフ) - 好きー (2021年8月18日 8時) (レス) id: d47eb74ff4 (このIDを非表示/違反報告)
ちよ(プロフ) - ひろさん» ありがとうございます! ラストはしりすぎたかな? とちょっと心配だったのでホッとしました( ˘ω˘ ) 続編は今のところ考えてないです( ; ; )すみません( ; ; ) 何か浮かべば番外編を書くかもなあというくらいで……コメントありがとうございました! (2019年12月19日 23時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
ちよ(プロフ) - じゅりさん» ありがとうございます! 私自身続編系???となってましたがなんとかおさまりまして……笑 次の作品はかわいい控えめかもしれませんが、がんばります! (2019年12月19日 23時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
ひろ(プロフ) - ラストの展開、キュンキュンしながら読ませていただきました!面白かったです!続編楽しみに待ってますね! (2019年12月19日 18時) (レス) id: 099739feed (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちよ | 作成日時:2019年12月8日 16時