住人だけじゃ物足りない ページ24
それに気がついたジョングクはすぐに私の手をぐいっと引いて、違う細い道に入った。
テヒョンさんはきっと私たちに気がついていない。別に彼女じゃないかもしれないし、もしかしたら姉が妹かもしれない。
そもそも、私にとってテヒョンさんは1番でも、テヒョンさんにとって私は1番ではないのだ。なにをわかり切ったことを、今更。
「A、」
「ごめんジョングク、ありがとう」
「……泣きそうな目してる」
両手をポケットから出して、手を解いて。彼の両手のひらが私の頬を優しく挟んで、がさりとビニール袋が肘で揺れた。
「……泣きそう、なんだと思う」
「泣かないの」
「泣こう、かな」
彼の手の甲に自分の手のひらを重ねた。さっきとは違ってグクの手はあたたかかった。
また彼が私の手を引いて、今度はポケットの中じゃなくて、私ごとグクの腕の中におさまってしまった。ああ、昔と変わらない匂いだ。
「泣きなよ」
「っ、うん、」
「今俺がAを抱きしめて、こうやって少しでも拠り所になってるなら、また違う未来があるかもしれないし」
「なにそれ」
夏じゃなくてよかった。
夏だったら、袋の中のチョコはとっくに溶けてしまっているだろうから。
そしてドロドロになって、甘い匂いを放つのだ。そんなの嫌だもの。
「わたし」
「うん」
「テヒョンさんのこと、好きなんだと思う」
「……そう」
崇高な思いだとか、ちょっとした崇拝に近いものだとか、憧れだとか恩だとか。
ずっとそんな風にこの感情に名前をつけていたけれど、どうやら本当の答えは違ったらしい。
あのとき、間違いなく私は「なんでテヒョンさんの1番は私じゃないんだろう」と自分勝手なことを考えた。
それはただの独占欲で、恋心から来るもので。
「……思い通りになんないよな、色々」
「っうん、」
テヒョンさんの世界に住むだけじゃ物足りなくなった。
いつのまにか私は、彼の世界で彼の隣でいることを望んでいたのだ。
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ちよ(プロフ) - mochiさん» お返事遅れてすみません!テヒョンさんの不思議な魅力はいつまでも青く綺麗なのだろうなと思って書きました。細々とですが執筆は続けたいです( ˘ω˘ )ありがとうございました! (2021年3月31日 22時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
mochi(プロフ) - 今更ながらちよさんの小説を見つけ、読ませていただきました。私もこんな青春時代を過ごせる仲間が欲しかったなぁって思いましたし、テヒョンのかっこよさが私の心をキュンキュンさせてくれました。これからも素敵なお話書き続けて欲しいです。終わってさみしい。 (2020年11月15日 20時) (レス) id: 7aaaff3998 (このIDを非表示/違反報告)
ちよ(プロフ) - あきさん» 尊い高校生の青春の日々は大事にしたいなあとしみじみと思いますね……( ˘ω˘ ) (2019年11月3日 11時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
あき(プロフ) - 青春したくなりました (2019年11月2日 0時) (レス) id: 93ffcf3bfd (このIDを非表示/違反報告)
ちよ(プロフ) - BeBeさん» わあああコメントありがとうございます( ; ; )!!! 更新バシバシがんばります!! (2019年10月30日 14時) (レス) id: 9ab381c422 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ちよ | 作成日時:2019年10月18日 23時