過去 ページ17
.
.
「A、起きな。」
....やだ、まだ寝てたい。
.
.
「起きなきゃ、尻叩くよ！」
.
ピピｯとことり達が歌う。
....うるさい、女将....ん？女将？
襖から差し込まれる光と、暖かい風で
意識が覚醒される。
.
目を開いたら、とても懐かしい景色が拡がっていた。
左腕を枕にして寝ていた私は、目の前の女将の
姿に驚愕する。
記憶でも色褪せたことの無い女将の姿。
厳しい顔をして、有言実行しようとしていたから慌てて体を起こす。
目の前に口をへの字に曲げた女将。
.
女将「....やっと起きたのかい！昨日は客がいなかったとはいえ相変わらず寝坊助だね！！」
「いやぁ、勘弁してくださいなぁ。」
....え？
意識もしていない言葉が勝手に口から放たれる
「(どういう事ですかねぇ？)女将、
今日は昼見世出なきゃ行けないのですかぁ？」
この会話は見覚えがある。
つまりは、会話をしているのは過去の私で
意識の私は、現実？のわたし。
ということなのだろうか....
女将「いや、今日は花魁道中だ。
あの....馴染みさんが指名して下さった。」
「あ！無惨様ｯ！
今日はいい事がありそうですぅ！」
最初の頃は鬼だと怖がっていたのに
何度か指名される内に、絆されていた。
....この頃は、本当に幸せだった。
喜んでいる過去の私を、女将は
複雑そうな表情で見つめていた。
「(気付いて、過去の私....！)」
....お願い。
....お願い、女将....お母さんを助けたいの
ダメだ、やめとけ。
意識のどこからか声が聞こえてくる。
過去は変えられないというのか。
.
せめて、感謝を伝えたい、
誰かも分からない声に向かって
そう訴えかける。
数秒間、静かな時間が広がり
その瞬間、すっと意識が過去の私と入れ替わった。
.
正座から立って仕事へ戻ろうとする
女将の手をパシッと掴む。
何だい？と怪訝そうな表情の女将の綺麗な瞳を
じっと見つめる。
....過去を変えられる事は、できないけど。
....せめて
「ありがとう。お母さん。」
.
そう彼女に伝えると、女将は目を見開いたあと
見たこともない穏やかな笑みを浮かべた。
背後の光が美貌を包み込み....
その美しさに息を呑む。
女将「....礼はいらない。
.
さ、待っている人がいる。帰りな、、」
その言葉を聞いたのを最後に
まぶたが重くなって、再び眠りへ落ちた。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 95人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：美麗 x他1人 | 作成日時：2020年3月18日 21時
