episode354 ページ14
＿＿どうしたの、可愛い天使。
そう言えば、フロイ・ギリカナンにもそんなこと言われたんだった。
あれ、私って本当に、天使だったっけな。
ふとそんなことを考えた自分が何だかおかしくて、口の端に笑みを追いやりながら、同じく純粋な気持ちで問いかけ返してみる。
「どうして、私が天使だと思ったの？」
「よく分かんないけど、君を見たら、そうなんじゃないかなって思って……」
あの絵本の天使に似てるんじゃないか、とか、天使がいる訳ない、なんて楽しげな話題で賑やかさを取り戻した子ども達を見て、先程の不安は拭ってあげられたかな、とこっそりと満足をする。
(それにしても、天使、ねぇ。)
FFIが始まってから妙な騙し合いにも慣れてしまった気がして、元々ひねくれていた性格が余計にねじれたんじゃないかって。
それでも、無理にその裏を透かそうとせず、幼いながらも私に夢を見てくれる人は、まだいるんだ。
その夢に、確かに私は救われている。
「そう、ありがとう。そう言われるの、嬉しい」
天使じゃないよ、なんて。
そんな野暮な現実を押し付けるのは、やめた。
君は天使なの、という問いへの答えは、わざとらしく、けれど柔らかく、ぼかしてあげる。
(その夢には応えたいし、守ってあげたいからね)
「……そうだ！君、サッカー好き？」
ぽん、とボールを弾いた爪先で指すように、公園にラインを引いて作った簡易サッカーフィールドに順番に戻っていく中、ひとりの男の子が私の手を取った。
「一緒にサッカー、やろうよ」
「ああ、ごめんね。今、先輩を待たせているんだ」
「えー、残念」
せっかくだけれど、恐らくそろそろ悠馬も戻ってくる。
そしたら、チームメイト達と揃って宿舎に向かうことになるだろう。
悠馬は戻っているだろうか、と確認しようと公園の外のベンチを見ようとしたら、丁度公園の入口に車が止まるのが見えた。
今にも映画スターでも降りてきそうな高級車だ。
止まっていた車がまさか私を待っていたとは思わなかったから、普通に通り過ぎて行こうとしたら、車の後部座席のドアが開いて、白い髪に蒼い目の大人の男性が真っ直ぐと私の方へと向かってくる。
車の窓越しに気付いた悠馬が、此方へ駆け寄っていたのが見えた。
でもまるでその助けを嘲笑うみたいに、彼は叫ぶ。彼の声は何故か、悲しそうに聴こえたんだ。
「ライゼン、＿＿来善……！」
確かに、名前を呼んだ。
でも、私の名前じゃない。
花綺更 来善。
私の、父親の名前を。
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2022年3月31日 19時
