episode300 ページ9
「うーん、説明が難しいな。なんて言うんだろ」
表情も言動も、年相応……むしろそれより幼くも映るくらいに無邪気なのに、その目はどこか寂しげ。
稲森先輩を見る度、何だかそのことばかりが気になってしまう。
試合のデータは何度も見つめていたとはいっても、稲森明日人という人間のことを私は何も知らない。
恐らく自室へと向かっているのだろう。
私が向かう李くんのいる部屋まで同じ方向だったから、話に付き合おうと長い廊下を歩く。
少し、興味があった。
よく知る人間＿＿悠馬とは真反対の人間が、どんな人生を歩んで、その道程でどのように価値観を形成したのか。
「俺は、伊那国島ってとこで育ってさ。ずっと同じ顔ぶれだから、チームの仲間って、家族とほとんど変わらないくらい身近で、俺の人生に大きく関わってる」
話には聞いたことがある。
強化委員として全国の中学校へ散っていったことで、そのまま空席になってしまった雷門イレブンに代わる形で、伊那国中学のサッカー部が雷門中学に招集されたということ。
(随分、思い切った提案に巻き込まれたひと達だな。一体、誰が考えたんだろう)
「だから、チームの仲間は大事にしてるんだ。チームの縁って、特別だろ。一星だって、その1人だったから」
「……そうですか」
話の続きがまだあるのかと思っていたのに、稲森先輩の声の代わりに静寂がその場を満たしていた。
話に迷っているにはかなり長考だ、と思って、稲森先輩の方を見れば、稲森先輩も私の話を待っていたようで、とぼけた視線がぱちりとぶつかる。
(……え、終わり？)
「……まさかそれだけの理由で、一星くんを庇っていたんですか？」
「え、うん……何かおかしかった？」
「おかしいというか、何というか……！」
会話が、やりづらい。
考え方の根本がまったく違う気がする。
(悠馬が苦手視している理由は、これか……！)
「それは伊那国イレブンの話でしょう。今のイナズマジャパンとは、訳が違いますよ……現に仲間内にスパイもいて、大会もFFみたいにクリーンじゃない」
「違わないよ。俺達がチームメイトであることは、誰にも否定させない」
私は間違ったことを言っていないはずなのに、稲森先輩にあやされるように頭をぽん、と撫でられて、話の続きを待つことしか出来なくなってしまう。
「だからあれだけ理解出来なかった野坂のことも、何も知らなかったAのことも、＿＿オリオンの使徒だった一星のことも。みんな仲間だよ、信じてる」
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2021年9月10日 19時
