episode329 Side Y ページ38
「オリオン財団側の大人と、接触した？」
白いドレスから、いつものジャージ姿に戻ったAから、そう切り出される。
ドレスの白色をはっきりと、だけどどこかもどかしくAの傍に残すのは、彼女の膝でごろごろとご機嫌そうな白猫の、みーくん。
一星君に害するつもりはない。
でも、運営のやり方には逆らえないことを分かっていてほしい、と。
淡々と話をまとめていくAと、隣で小さく頷く一星君。
「君が話した通り、今までオリオン財団に歯向かった選手は、“排除”をされていたんだね」
「はい……、少なくとも、選手としての権利を剥奪されています。その後は＿＿俺にも、分からない」
それなら、何故一星君だけが“排除”を免れた？
とは言っても、迂闊にその言葉を信用するのも、危険だ。油断させておいて、一星君の隙を突くつもりなのかもしれない。
「でも新条さん、多分、嘘はついてないと思います」
途端に、一星君を危険な道へと誘ってしまった＿＿と込み上げた緊張が解けなくなった僕の思考を、強く引き留めるように、一星君は真っ直ぐと僕を見つめて、そう言い切った。
「目線は真っ直ぐ寄越して不容易にうろつかなかったし、瞳孔も一貫して正常だった。此方を欺こうという意思は、あの時点では見えなかったかな。まぁ、だからといって白で確定という訳ではないけれど」
興奮状態には、瞳孔が開く。
それは嘘を見抜く為の、1つのテクニック。
Aはとんとん、と自身の目元を指指す。
でもそれだと、余計に分からない。
一星君だけが、特別に許される理由って？
相手は、一星君の心の病さえも利用して、彼を操り人形にしてしまった組織だ。
こんなところで恩情が与えられるとは、考えにくい。
「一星君。自分だけ、という理由に、何か心当たりはないかな」
これ以上無いくらい、残酷な問いだったと思う。
だって僕はその問い一つで、呪縛から解き放ったはずの一星君に、その呪縛の元へ一度引き返してくれ、と言っているようなものなんだから。
だけど一星君はそれすらも躊躇わずに飲み下して、はっと弾かれたように、“もしかして”、と枯れた声を零して。
「俺、ロシアのチームにいた頃の友達＿＿親友が、いるんです。フロイ・ギリカナン。オリオン財団の理事を務める、ギリカナン一族の一員」
＿＿フロイが、俺を守ってくれてるのかもしれない。
そう呟いた一星君の感情は、入り組んで絡まって、出口の先の光なんて見えやしない、迷路みたいだった。
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2021年9月10日 19時
