321 ピース・オブ・ケイク Side Y ページ30
「1番怖いのは、食事に毒を盛られることだと思った。死人までは出さないけど、意識不明にしたり、痺れなんかで身体の動きを鈍らされたりして、試合に影響が出ること」
偵察、という割には、あまりにも目を惹く姿だ。
いつもとは違った出で立ちで、ホールの隅の壁に凭れて待っていた彼女の隣に並んで立つ。
こんな端っこなんか似合わないな、と、大きなシャンデリアの下まで誘うように手を引けば、まだ待って、というように人差し指を立てて、こう話し始めた。
「でも、光くんの話で納得が出来ない訳ではなかったんだ。世界サッカー協会主催、と明確に発表された壮行会。もしパーティー中に何かあれば、その不備を突き付けられることは明確。避けたい事態だろうね」
パーティーの参加者全員から毒物が検出されれば、もちろん主催側の不備として訴えられる。
「それの対抗策として、同じく参加者＿＿スペイン代表が裏で黒幕と組んでいて、私達だけが毒を摂取することになる状況……でも、これも無さそう。私は1番初めにこのホールに入って、スペイン代表メンバーの行動を見ていたんだけれどね」
実際に第3試合の前、バスのタイヤに細工をされたことがある。
しかしバス自体は、組織から手配されたものではなく、日本側がイナズマジャパンにと手配したものだ。事故に遭っても、組織側に責任は問えなかった。せいぜいイナズマジャパンの運営が責められて終わる程度。
それと、同じような話。
僕達だけにのみ毒が検知されれば、この船上パーティーには非が無いとされて、恐らく日本の宿舎側の管理の問題と断定される。
「グラスやカトラリーはテーブルに並べてあるものを各々自由に手に取っている。食事を皿に取る時も、大皿料理やデザートまで、取り方に規則性はない」
それを案じて、Aはこのホールを見張ってくれていた。
ホール中のテーブルへと促す指先に誘われるまま、僕もAと一緒に辺りを見回す。
「特定の食器や料理に毒が盛られているということもないよ。小さなケーキの1ピースまで見たから、間違いない。そして」
Aはとんとん、と自身の目元を指さして示す。
その瞳に、ホールの中央のシャンデリアの光が映り込んでいて、まるで彼女の自信を強く後押すように煌めいていた。
「船上なら、外部の邪魔は入らない。船内にいる人物なら全員、私の目で把握出来る……とりあえず、ひたすらに前向きに考えれば、現状はこんな感じ。どうかな」
「うん、完璧。ありがとう」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 357人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：三峰 契 | 作成日時：2021年9月10日 19時
