episode315 Side Y ページ24
「無事、中国代表に勝ちました。そして、それでハッピーエンド。……だって？笑わせないでよ」
宿舎の共用スペース。
そこに響いたのは、Aの珍しく大きな声。
「いいんじゃないの、勝てたんだし。それに、久しぶりにクリーンな試合が出来たじゃない」
「納得が行かない。結局今こっちにいるということは、あの試合で勝った方に真剣に監督として就いて、華々しく本戦へと旅立つって算段でしょ」
途中でベンチの剛陣さんと交代し、いつもよりも体力が残っているらしい。
バスが宿舎に到着して、いつも通りに“起きて”、と声を掛けようとしたら、イライラとした様子で腕と脚を組むAの目が此方を睨んでいたのだ。
「まぁまぁ、Aちゃん。俺はAちゃんの作戦で趙金雲監督を出し抜けて……楽しかったよ。どきどきした」
「ほら、一星君もそう言ってくれてるんだし。そろそろ、機嫌直して。ね？」
ポジションに制限は出るものの、全方向隙無しとも言える鉄壁、ザ・アシュラの完成。
そしてストライカー陣の新たな武器。豪陣さんの、ファイアレモネードライジング。
……得るものは、多かったんだけれど。
この子のご機嫌取りは、ちょっと手間取りそうだ。
人付き合いを分かりやすく避けるような子じゃない。
そんなAに早々、相容れない、とも言わしめた監督。
しかも、以前からずっと手を抜かれていた、チームを掛け持ちしていた、となると。
(関係の回復は、しばらく諦めた方がいいかもね)
その会話を楽しそうに見ている、監督。
「でも、西蔭さん。あの新技は、凄かったです」
Aはその視線から逃れるように、尖らせた唇を、ふい、と、今度は西蔭の方へと向ける。
西蔭は困り果てている僕と一星君に目配せをしてから、そっとAの背中をとんとん、と軽く叩いた。
「それを、不貞腐れたまま言われてもな。……その賞賛は、いつも通りのAから貰いたい」
「……西蔭さん、結構言うようになりましたね」
「さて、誰のせいだろうな」
ふうっ、と風船を膨らませるように深く息を吐き出して、Aは静かに両肘をついて、監督をじっ、と容赦のない視線で刺した。
それを合図に、監督はいつになく真剣な表情で話を始める。
「さて、おふざけはここまでです。……以前も話した通り、FFI世界大会で我々を待ち構える敵は、対戦相手の代表チームだけではありません。世界大会に出場する代表チームのほとんどに、オリオンの使徒が紛れ込んでいると思って下さい」
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2021年9月10日 19時
