episode252 Side Y ページ10
「A、……A」
バスが停まって、しばらく。
いつしか移動中に眠っているAを起こすのは恒例になっていて、“遅れるなよ”と笑う仲間を見送ってから。
いつもに増して寝起きが悪い……というのも、今日の明け方、ふたりでずっと話していたせいだろう。
西蔭の手にゆらゆらと揺らされて、ようやくAの睫毛がふわりと上を向く。
「ん」
「昨晩、勝手に野坂さんを夜更かしに巻き込んだくせに。大事な試合前だぞ」
「もう、そのことは僕からも謝るから……でもA、そろそろ起きて？」
Aは気ままに伸びをして、眠気覚ましにライム味のチューイン・キャンディを2粒、一気に口へ放った。むぐむぐ、と頬が膨れているのが微笑ましい。
「相変わらずだな。バスで何が起こるか、分からなかったのに」
それに対して西蔭は先程から、ずっと眉を顰めている。
何が起こるかも分からないような試合前とは思えないくらい、随分リラックスした様子のAに。
そんな僕も、実は怖かった。
何故なら前日、一星君の部屋からあるものを見つけてしまったから。
(バスのタイヤに細工、ね……僕達が予想以上に勝ち進んでいるから、なりふり構ってられないのかな)
Aが一星君と話している時間はそれなりに長く、スイッチに再細工する隙もあったから、共用スペースに置き忘れてあった灰崎君のイヤホンを拝借してみた。
もしスイッチが押されたら、その事実がすぐ分かるように。
……なんて、最もらしいこと言って。悪戯心がないといったら、嘘になるけど。
(……とはいえ)
バスでのやりとりを、苦く思い出す。
怒りを顕にする、灰崎君。
＿＿おい、誰か音量いじる悪戯してやがんのか…！？
(Aが言った通り、やっぱり駄目か。スイッチ、押したんだ。一星君……)
「……ねぇ、A。怖くなかったの？」
僕が言い終わるのと同時くらいに、こくり、と、Aが静かにキャンディを飲み下す。
口の中がすっかり空になってから、柔らかく息を継ぐように、Aはぼんやりと窓の外を見上げながら呟いた。溜め息に合わせて、ほのかに甘くて爽やかな、ライムとミントの香りが周囲を泳ぐ。
「……そうだね。怖くなかった、と言ったら、嘘になるかな」
そんな弱気の言葉とは裏腹に、強い意志の宿った凛々しい眼差しで。
さて、先程の眠気はどこへやら？真っ直ぐ前を向いて、颯爽と僕達の先を歩いて行く。
「でも、これから私がすべきことは分かっているから。今は、平気だよ」
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三峰 契(プロフ) - 琥珀恋歌さん» お返事お待たせしてしまい申し訳ありません…！現在本編に集中する為、スピンオフの方は更新をお休みさせて頂いております。更新再開時にまたパスワードを公開する予定です！ (2021年4月2日 23時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
琥珀恋歌(プロフ) - スピンオフのパスワード教えてください！ (2021年3月18日 13時) (レス) id: a29e155f14 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2021年2月27日 18時
