episode254 Side S ページ12
「……？ 西蔭さん、どうしたの」
これまで通り、1人だけ別室になってしまうAを迎えに行ってから、チームメイトと合流する。
今、野坂さんは作戦の最終確認で、監督達と話をしている。だから、また俺が1人でここまで来た。ただそれだけのこと。
なのに更衣室の扉が開いて、ふと掛ける声に一瞬迷う。
Aは立ち尽くした俺を急かすように、何の悪気もなく、爪先をとんとんと鳴らした。
「せっかく西蔭さんがここまで迎えに来てくれているのに、そのせいで遅れてしまったら申し訳ないです」
「……ああ、そうだな」
Aの小さな歩幅に合わせるように、普段よりもずっとゆっくり歩く。
今朝から野坂さんの表情が、どこか晴れない。
周りに心配を掛けないようにと表は冷静を装っているが、いつもの野坂さんにないはずの仄暗いものが、俺の視界には嫌でも入り込んでくるのだ。
とはいえ、そのことに察しがついているのは、俺とAくらいだろう。
「昨日の晩。野坂さんと、何を話した」
「ん……はは。やっぱり、気になりますか」
「だからな……、そういう挑発的な物言いはよせ。俺や野坂さんはあんたのことを分かっているから構わないが、周りからは誤解されかねない」
「別に。悠馬や西蔭さんから誤解されないなら、私はそれでいいんです。ふたりの前なら私は、悪びれもなく悪い子でいられる」
指先で髪を軽く
何でもない顔をして口にしたのは、幼さと憂いが斑に混ざり合った、相当の殺し文句。Aらしいと言えば、Aらしい。
「だからお願い、もう少しだけ、悪い子でいさせて。この試合が無事に終われば、全然怒らない悠馬の分まで、西蔭さんが叱ってくださいね」
Aはただ、真っ当な理由で叱られることを求めて、俺にそんなことを言ったのだろうか。
それにしては、あまりにも真っ直ぐな目だ。いつものシニカルな笑みは息を潜めて、どこか懇願するような眼差し。
「分かった。叱らなければならないことがあるなら、俺が叱る。だが、無茶はしないでくれ。約束だ」
「悠馬が悲しむから？」
「……悲しむのは、野坂さんだけじゃない。分かったな、A」
1つ言葉を投げかければ3つの言葉を返すようなAだが、今回は珍しく、返事がなかった。
しかし、これは気のせいかも知れないが＿＿俺がそう言ってからすぐ前を向いたAの口元が、柔らかく綻んでいたようにも見えた。
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三峰 契(プロフ) - 琥珀恋歌さん» お返事お待たせしてしまい申し訳ありません…！現在本編に集中する為、スピンオフの方は更新をお休みさせて頂いております。更新再開時にまたパスワードを公開する予定です！ (2021年4月2日 23時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
琥珀恋歌(プロフ) - スピンオフのパスワード教えてください！ (2021年3月18日 13時) (レス) id: a29e155f14 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2021年2月27日 18時
