253 デクレシェンド・クレセント ページ11
女子選手更衣室、少なくとも現時点は私ひとりになる部屋。
恐る恐ると扉を開き、廊下から部屋を1周見回して異常がないことを確認する。
「……はぁ…」
嫌な汗が、ジャージの内側を這って行く。
熱いのか冷たいのか分からない皮膚を扇ぐように、ジャージを脱ぎ捨てた。
鞄の中からいつも通り、ユニフォームとタブレット、それから包帯を取り出す。
一星充くんと話をした時は、何とか父親の話は避けられた＿＿というより、する必要に駆られはしなかったけれど。
いつかは誰かに、説明しなくちゃいけない日が来るんだろうか。
(手術もしたし、時間も経過したし。薄くはなったように見えるけれど、消えないんだろうな、これは)
それは意識のスイッチを切り替える、ルーティン。
腹部の包帯を巻き直す為に1度解けば、左の肋骨辺りに、大きな三日月が現れる。
唯一、残ってしまった傷跡。
そして私の運命を変えてくれた、というべきか、変えてしまった、というべきか……そんな衝動の、証。
制服のシャツを軽く
でも、悠馬の傷跡は、誤った自己犠牲を働いたとはいえ、誰かを助けた証。私の傷に、そんな大義はない。
＿＿“でも、これから私がすべきことは分かっているから。今は、平気だよ”。
……試合前だ。あんまり余計なこと、考えないで。
あの言葉が強がりじゃないことは、私がいちばん分かってなくちゃならないのに。
感情ごと覆い隠すようにして、片手で隠し切れないくらいの大きな傷跡を無機質な白色で塗り潰していく。
「もう、大丈夫だよ。私、これからちゃんと変わっていけるからさ」
ちりちりと今も痛むような傷に触れながら、そっと息を吐く。
今までの試合前みたいな胸騒ぎは、感じない。少しずつこの傷とも、向き合う頃なのかもしれない。
(さて、……あとは、と)
部屋の角にタブレットを置いて、クリップ式の魚眼レンズを取り付ける。
誰かが入って来るところを撮れたら、万々歳。もしカメラを取り壊されたり、本体ごと持ち去られたりしたとしても、十分訴えられる材料になるだろう。
後から魚眼補正をすれば、本来のカメラよりも視角は広がる。このカメラの性能なら、この部屋全体を撮ることができるから。
(念には念を、と言っても。……やっぱり、気が抜けないな)
きろりと此方を睨むレンズを覗いて、再びゆっくりと扉を開いて廊下に出る。
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三峰 契(プロフ) - 琥珀恋歌さん» お返事お待たせしてしまい申し訳ありません…！現在本編に集中する為、スピンオフの方は更新をお休みさせて頂いております。更新再開時にまたパスワードを公開する予定です！ (2021年4月2日 23時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
琥珀恋歌(プロフ) - スピンオフのパスワード教えてください！ (2021年3月18日 13時) (レス) id: a29e155f14 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2021年2月27日 18時
