244 フレア・ステラ ページ2
「……っ、おっと、」
自分よりも一回り大きな掌から、水の入ったコップが滑り落ちる。一瞬のことだったはずなのに、その時の私にはスローモーションみたいにも見えた。
床に叩きつけられて割れてしまう前に、投げ出された宙の間でキャッチする。
ちゃぷん、と中の水が零れて、私達が向き合わせた爪先を寸でのところで避けて、出来損ないの小雨のように数滴ぱたぱたと落ちていた。
「落とさないように気を付けてよ。1日に、いくつも割れ物の片付けをしたくはないな」
これは一星充くんのことだけれど、まだ何の話も聞いていない悠馬が知る由もない。
伝わりもしない皮肉に見向きもせず、私だけを見つめるように。
悠馬はいつも穏やかに伏せている目を、まんまるに見開いていた。
「A、今」
……動じない奴だとは常日頃、思っていたけれど。
流石の君でも、これは想定外？
私がふと浮かんだ言葉をかける前に、強く肩を掴まれた。
それなりに私のことを知ってくれている彼だ。こんな状況でも力任せになることはなく、まるでぎゅっと包み込むように。
「……今、なんて」
「だから。話したよ、一星充くんに。全部」
「全部って、どこまで？」
「君と西蔭さんしか知らないことまで」
テーブルランプ、私が灯したこの部屋唯一の光源。
そこに戻る素振りをしながら、やんわりと悠馬の両手から逃れる。
ひらり、翻ったジャージの裾が、ビロードのような影を織り広げた。
その影の下に、やり場を失くした掌を静かに下ろした姿が沈む。
「……はは、絶対怒られると思った。怒らないの？」
「君のことだから、ちゃんと訳があるんでしょ……すぐに怒ったりしないから、理由を聞かせて。お願い」
朧な灯に照らし出された顔は、年齢よりも少し大人っぽく見える。
相変わらず、嫌味なくらいに綺麗な顔だ。でもその顔が私のせいで、誰にも見せないようなこんな表情になっているんだ、と思うと。
「さぁ。何でだろうね。本当はあそこまで話すつもりじゃなかったんだけれど」
「……何でだろう、じゃないよ。もし取り返しのつかないことになったら」
＿＿少し、意地悪をしたくなってしまう。
一体誰に似たんだか。
「一緒だと、思ったの。あの子と私。薄情に言うと、一星充くんを味方に引き入れる為に、同情を引きたかったから」
苦く立ち込めた思考の靄を掻き消すように、ガラスコップの淵を、キン、と爪の先で叩く。
「そして本音を言うと、まだあの子を信じてみたいと思ったから、だよ」
episode245 Side M＿＿Shortly before→←episode243 Side Y
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三峰 契(プロフ) - 琥珀恋歌さん» お返事お待たせしてしまい申し訳ありません…！現在本編に集中する為、スピンオフの方は更新をお休みさせて頂いております。更新再開時にまたパスワードを公開する予定です！ (2021年4月2日 23時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
琥珀恋歌(プロフ) - スピンオフのパスワード教えてください！ (2021年3月18日 13時) (レス) id: a29e155f14 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2021年2月27日 18時
