episode241 ページ48
「逃がして欲しければ、自分の子供を我がアレスプログラムの実験台として差し出せ＿＿ってね」
自らの頭でとうに色褪せた記憶に、またもう一度、望まない色を蘇らせていく。
一度口にすれば、それは意識に逆らってぼろぼろと剥がれ落ちていくように、絶えず
「……はは。それも、英才子供センターでどんなことが行われているかを知りながら、だよ」
「笑い事じゃない……！何だよ、それ……そんなの絶対、正気じゃない！」
＿＿正気じゃない、って。
あの時そう言っていれば母は、泣きながら私に謝ったのだろうか。謝ったところで、どうにもならないのに。
「ありがとう。同情してくれるの？」
一星光くんは病室で、事故に遭った時のことを酷く悲しそうに話してくれた。
父親を亡くし、自分はこんな状態になってしまった、と。
母親の話は聞かなかったけれど、こうして怒ってくれる、おかしいと思ってくれるということは、一星くん達は少なくとも、父親には恵まれていたのだろう。
「なんてね。いいんだよ、別に。もう気にしてなんかいないから」
「気にしてない、って……もっとマシな嘘をつけよ、いつもみたいにさ…」
私が素直に泣けていたのなら、きっとこの言葉を聞いてすぐ、ぽろぽろと涙を零していたと思う。
それくらい、脆くも優しい言葉だった。
これは、ひとつの賭けだ。
どれだけ一星充くんの気を引けるか。
そして、この話でどれだけ一星充くんに共感をさせられるか。
まるで滑稽な独り舞台。舞台を創る全ては、私の言葉。
目の前の一星充くんの反応を窺いながら、最適解を導くように声を紡ぎ上げる。
少しでも話すのを躊躇して会話のテンポを崩せば、私も彼も、途端に引き戻されてしまうから。
今、ふたりの世界の均衡を崩すな、と、世界が叫ぶ。
「兄は、アレスプログラムで数々の目覚ましい結果を残した。類稀なる頭脳とサッカーのセンス、それに、プログラムに対して意欲的だったのも大きい」
「意欲的だったって、……力に溺れた、ってこと？」
「ううん。もっと、厄介な理由」
角砂糖がいくつも溶け込んだ紅茶は、働きが鈍くなった頭の歯車、その欠けた歯先を無理に補うように、脳に直接じゅわり、と染み込んだ。
鼓動がすぐ耳元で騒ぐように、嫌にうるさく響く。
ああ、こうして覚悟をしたんだから、邪魔なんてしないで。
「私も連れて行かれるところだったんだ、英才子供センターに。……そんな私を、兄が助けてくれた」
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
