episode234＿＿in the past Side Y ページ41
「ありがとう、悠馬」
FF決勝戦、スタジアムへと入場する前。
真新しいユニフォームに身を包んだAは、見慣れた制服姿の時よりもどことなく、親しみやすい雰囲気を纏っていた。
「あの日の私に、サッカーをやろうって言ってくれて」
本当はもっと早く試合に出場させてあげたかったけど、僕なんかよりも深く実験に関わるAのことだ。
少しでも反逆の気配を悟られて、今の梯子を外されてしまう訳にはいかなかった。
僕一人じゃ、まだこの子を守れないこと。
それを誰かに自覚させられたくは、なくて。
だから、御堂院との勝負に出られる準備がようやく整った今更になってしまった。
それでも、これから未知の世界へ踏み出していく彼女は、静かに心を躍らせるように、軽やかなステップで僕の隣を歩く。
「君は、私の恩人だよ。あそこでサッカーから逃げてしまったら、由羽真くんとの思い出からも逃げることになっていただろうな、って」
真っ直ぐフィールドへと爪先を向けている中、ふいに視線だけをふわりと此方にちらつかせて、Aは少し厳しい顔つきで続けた。
「でもね、ひとつだけ君を否定させてほしい。私にサッカーをやろうって言った時、悠馬は、由羽真くんもそれを望んでくれるはずだからって言ったけれど」
＿＿“由羽真さんも、それを望んでくれるはずだから”。
それは祈るように、そして縛り付けるように呟いた言葉だった。
この子と一緒にサッカーをしたい。
そんなエゴから生まれた、醜い欲に似たもの。
「私は今、サッカーが好きだからサッカーをしているよ。由羽真くんが望むからでも、悠馬を慰める為でもない……そう、きっとこれは、何にも代え難い愛だ。他の誰かの感情なんて、割り込ませないよ。たったひとりの兄にも、恩人である君にもね」
しかしAは、そんな僕のエゴも飲み下して笑っている。
どんな意味を含んだ笑みだったんだろう、それすら想像はさせてくれない。ただ、その笑みに苦しみが混じってはいなかっただろうか、ということだけが心配として、一糸紛れ込んでいた。
「僕は、Aがサッカーを好きでいてくれるだけで嬉しいよ。それをA自身が決めてくれたなら、尚更」
「うん。……これは勝手な自論だけれど、ひとはやっぱり、他人の為なんかには生きられないと思うから」
歓声が近付いてくる中で、Aはどんな顔をして、その言葉を口にしていたんだろう。
「私は私のやりたいことをする。……私だけの為に、生きていくよ」
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
