episode227 ページ34
それは甘えんぼのミハイルが急に私の膝から、ぴょん、と降りて、部屋を飛び出して行ったものだから。
何かあったのかと廊下を追いかけたら、私と一緒にいる時と同じようにごろごろと喉を鳴らす姿の隣には、一星充くんがいた。
「あ」
「……げっ、A…」
一星充くんは私が視界に入って来たのとほぼ同時に、まるで何かの反射のように、ミハイルから離れてしまう。
……優しそうに撫でてくれていたから、責める気は無かったのに。
それを言おうとした頃には、一星充くんはいつも通りの顰めっ面に戻っていた。
「ほら、とっとと、自分の部屋に連れて帰れよ。……妙に懐かれて、迷惑してんだ。こいつの責任くらいちゃんと持ってやれよな、飼い主」
ミハイルは構ってもらえたみたいで、何やら満足げ。
意外だ。私以外には、全く懐かないものだと思っていたけれど。
「君は随分と人を見る目があるんだね、ミハイル」
「何だよ、またお得意の皮肉のつもり？」
「あれ、そんなつもりはなかったのに。ごめんね？」
ここでちゃんと手を合わせて謝ったのに、あまり誠意は伝わらなかったみたい。
一星充くんの表情は一層不機嫌なものに変わる。
今回だけは、真面目なのにな。
(……まぁ、普段の物言いからして仕方ないか)
「ひとよりも寂しがり屋のくせに、なかなか素直になれない意地っ張り。そんな私達だけに懐くんだから、この子はきっと私達が本当は寂しがっていることを見抜いているんだろうな、と思ったの。それだけだよ」
「……まさか、自分が俺と似た者同士だって？」
一星充くんの瞳に、じんわりと翳りをかけた嫌悪感。
鋭い感情の矛先が向いていたのは、私じゃなくて。
それはまるで、自分自身を責め立てているみたいに見える。
善人では居られないのに、悪人にはなりきれない。
酷く息苦しそうに、大人と子供の間で藻掻く姿。
「さて、この子に構ってくれたお礼をしないとね。これから私の部屋でゆっくり、お茶でもどうかな。誰にも邪魔されないように、ふたりきりで」
「だ……、誰がそんな、簡単について行くか……！」
(じゃあ私が、今だけは君以上の悪で居てあげるよ)
スマートフォンの画面に映し出したのは、あの不良と会話をしている時の映像。
迂闊に使ったら此方が詰む。状況証拠であり、物的証拠。
引き合いに出せるとしたら、もう此処だけしかないと思ったから。
「お願い、私と一緒に来てよ。一星、充くん」
青ざめた顔の彼に、ただただ懇願するように呟いた。
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» コメントありがとうございます！のんびり更新ですが、これからも頑張ります！ (2020年10月9日 14時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - これからも体に気をつけて頑張って下さい！ずっと応援しています！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続編おめでとうございます！私は、この小説が大好きでとてもドキドキする小説です！！私、野坂君が大好きなのでまだこの小説を続けて欲しいです！！ (2020年10月4日 19時) (レス) id: 517f37b5b5 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2020年10月1日 12時
