episode73 ページ26
「そんなの、もう分かってるよ」
難しい問題を丁寧に説くような話し方に、今更そんなこと言わなくても、と思わず眉が寄る。
「迂闊に動いたら危険なことは、私だって分かってる。でも」
自分の身を守る為ならば、関わらないことが正しい。
そう認めてしまえる程冷徹になれない私の心を見透かしたのか、悠馬は私を宥めながらも、偽りの無い事実をゆっくりと言い聞かせた。
『鬼道さんが狙われた理由、もう分かってるよね』
「……相手側にとって都合の悪い選手だったから。それ以外の理由が思いつかない」
『うん、きっとそれが全てだよ。試合が終わってすぐに手段も選ばず、権力だけを振りかざして鬼道さんを弾き出した。我々の計画を邪魔すればこうなるんだって、牽制の意もあるんだと思う』
司令塔、チームの調和を司る中核という立場。そして、豪炎寺先輩と円堂先輩というごく身近な友人が狙われたばかりだという危機的、かつ不安定な状況。
あのまま易々と見過ごせる訳も無い。
多少の迷いも生じさせながらも、一星充くんを狙う他なかったんだろう。
それなのに、彼等に課されたその使命を妨げようと動けば、どんな卑劣な手を使ってでもこの大会から弾き出されてしまう。
「それなら、……一体どうすれば」
『今、直接的な手を打つのは得策じゃない。だから、このことについてAが後悔する必要はどこにも無いよ。君の言い分はよく分かるけど、その状況証拠を突き付けたことで鬼道さんだけじゃなく、君まで巻き込まれたら』
「じゃあ、悠馬だったら」
”余計なことはしなくていい” じゃなくて、”思い詰めなくてもいい”。
こんな時でも悠馬は、意地でも私のことを否定しようとはしなかった。
『どうしたの、A』
いっそ、一度叱ってくれれば良かったのに。
八つ当たりのまま強い語気で言葉を遮ったって、私を案じるだけの優しい微笑が返ってくれば、強制的に頭が冷やされていく。
「……鬼道先輩に聞かれたんだ、”もし立場が違えば”って。フォワードの私が戦線離脱、ゴールキーパーの西蔭さんが狙われていることを知ったとしたら、司令塔の悠馬はどう動いたと思うかって」
心も思考も殺して、見て見ぬふりを貫くか。
選手生命すらも危険に晒して、抵抗するか。
どちらも違う、そう否定して欲しい。
そんな我儘な望みを掛けたからこそ、私は彼に向けて残酷な問いを突き付けていたんだと思う。
「教えてよ、悠馬。もし君だったら、あの場でどう動いたのかを」
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» はじめまして、コメントありがとうございます！のんびりですがこれからも更新頑張りますので、よろしくお願いします！ (2020年3月10日 21時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続きが気になり過ぎて待ちどうしいです。これからも頑張ってください。 (2020年3月10日 15時) (レス) id: b69d3c39c6 (このIDを非表示/違反報告)
鈴蘭〜すずらん〜(プロフ) - 始めまして。麗乙女のゆううつのパスワードを教えてもらいたいです！ (2020年2月3日 16時) (レス) id: b5347077cc (このIDを非表示/違反報告)
契(プロフ) - 匿名さん» 初めまして。展開は決まっているのですが、野坂さんと花綺更ちゃん、頭脳派という設定の 2名のやりとりをどのようにまとめるかで長く手こずってしまい…！なので体調は万全です！ご心配お掛けして申し訳ありません。これからも楽しんで頂ける作品を目指して頑張ります！ (2019年12月10日 0時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - 初めまして。以前から楽しく拝見させていただいております。しばらく更新が無かったので体調を崩されているのかと心配しておりました…。花綺更さんと野坂さんの今後をハラハラかつワクワクと今後も楽しみにしております…！ (2019年12月8日 5時) (レス) id: dfef9e7ff2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2019年10月6日 8時
