episode68 Side Y ページ21
『……うん、ありがとう。そっちの方が欲しい言葉だったと思う』
やっとの思い、といった様子でAは唇からぽとんと落ちるような悲しげな声を零した。
視線は包帯の巻かれた脚と、震えた爪先。
案の定、中継はその瞬間を映してはくれない。
極めて軽傷。それが、目を庇った結果だということ。
西蔭からそう聞かされて、チームに居なかった僕はようやく状況を知るに至った。
『ごめん。試合のデータ、最後の数分間は取れなかったんだ』
「謝らないでよ、君は悪くない」
目に感情や体調の表れやすいAの様子を確認しておきたいという僕の希望と、電子機器の扱いには長けているのにSNSの類には疎く、電話での会話は視覚に頼れないから話が上手く進められないというAの短所。
それらが噛み合って、毎回試合前後には映像での連絡を用いるという流れになった。
これで離れても少しは安心できると思っていたのに、彼女の気持ちを映していたその目は突然曇らされて、何も見透かせなくなってしまった。
このまま何も言わせずに抱え込んでしまうのも、もう一度あの瞬間を思い起こさせるのも、どう転んでもAにとっては毒にしかなりえない。
「A。試合中のこと、必要以上には聞かれたくない？それとも、少しでも吐き出しておきたい？」
それならせめて毒の害を抑える為、あわよくばその毒を痛みを麻痺させる薬に変える為の何かをどうにかして探そうと、選択を委ねることにした。
『それって、怪我した時ってこと？』
「そう、Aが負担にならない方を選んで」
指先を画面上で滑らせ、試合中のデータをタップして軽く確認しながら思案を巡らせている。
それぞれの画面に送信中、受信中という文字が表示されているのを横目に、まるで独り言と言った様子で目線を僕から外したままAは呟いた。
『思い出したくもないけれど、黙っていたら自己嫌悪で今にも潰れそう。そういう理由で君に話すっていうことでも、良いかな』
「うん、大丈夫。ゆっくりで良いよ、僕に話してみてくれる？」
Aが小さく頷くと同時に、声を絞ろうと喉をぐっと押さえた指先が白むのが見えて、思わずそれを阻止しようと画面の方へ手が伸びてしまう。
しかしそれを阻止しようとした手を、更に阻止するように彼女は重々しい口を開いた。
『あの時、分からなくなった。目を絶対に傷付けられたくなくて、選手なら大事なはずの脚を守らないといけないって気持ちがあっという間に薄れたんだ』
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» はじめまして、コメントありがとうございます！のんびりですがこれからも更新頑張りますので、よろしくお願いします！ (2020年3月10日 21時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続きが気になり過ぎて待ちどうしいです。これからも頑張ってください。 (2020年3月10日 15時) (レス) id: b69d3c39c6 (このIDを非表示/違反報告)
鈴蘭〜すずらん〜(プロフ) - 始めまして。麗乙女のゆううつのパスワードを教えてもらいたいです！ (2020年2月3日 16時) (レス) id: b5347077cc (このIDを非表示/違反報告)
契(プロフ) - 匿名さん» 初めまして。展開は決まっているのですが、野坂さんと花綺更ちゃん、頭脳派という設定の 2名のやりとりをどのようにまとめるかで長く手こずってしまい…！なので体調は万全です！ご心配お掛けして申し訳ありません。これからも楽しんで頂ける作品を目指して頑張ります！ (2019年12月10日 0時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - 初めまして。以前から楽しく拝見させていただいております。しばらく更新が無かったので体調を崩されているのかと心配しておりました…。花綺更さんと野坂さんの今後をハラハラかつワクワクと今後も楽しみにしております…！ (2019年12月8日 5時) (レス) id: dfef9e7ff2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2019年10月6日 8時
