episode66 ページ19
何度目を覚まそうとしても、目の前は1ミリだって変わろうとはしてくれない。
あの姿が見えないだけ、幾分マシだと言えばそうだ。
そのはずなのに、飽きもせず繰り返される”ごめんなさい”が、その場に居もしない人物を光景としてではなく意識に刷り込んでいる。
時間の体感もこの生温い空気に少しずつ絞め殺されていて、このままだと永遠にここに留められることになりそうだ、なんて震え上がるくらいに恐ろしいことだって容易く頭を過ぎっていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
何で、謝ることしか出来なかったのかな。
行く宛てなんて無くたって、逃げれば良かったんだ。
そうすれば少なくともここより地獄なんて存在しなかったのに、私は本当に最後の最後まで逃げ損なってしまった。
(そこから早く逃げなかったから、やっと覚悟が出来た頃には逃げ着く先も地獄しか残っていなかったんだよ)
包帯の下、左の肋骨の辺り。
傷を付けられたその日すらも痛くなかったはずの傷痕が、今更になってじわりと痛み出す。
あれだけ大きな傷を負ったって、痛みさえも感じられなかった。本当に感覚が焼き切れてしまっていたんだろう。
だから覚えているのは、傷口から絶えずにぼたぼたと溢れ続けた血と、薄れていく意識の中の走馬灯。
(もう良いよ、これだけ思い出させられたら充分だ)
このまま目を閉じたら、きっとここから帰れなくなってしまう。
何故かそんな気がして、落ちかけた瞼を何度も何度も擦り続けていた。
”Aちゃん”
霞んでいく視界を手放しかけたその刹那、耳というより胸の奥へと入り込んだのは、誰より優しい声色。
遠い記憶の奥にいる彼の声なのかと思ったけれど、後から思い返せば悠馬の声だったようにも感じられた。
声は人間の記憶に1番残りにくいらしい。
それが視覚に依存している状態の私なら、尚更。
でも悠馬はともかく、彼の声はもう何年も聞いていない。
なのに、どうしてそれを聞いて1番に彼の声だと思ったんだろう。
そうして時間の経過と共に緩やかに輪郭を歪めていく記憶の中、悪夢から連れ出してくれたのはその声だったということだけがただ胸に残る。
「ゆうまくん」
その声を合図に崩れていく悪夢の中、私は姿も見えやしない声の主を呼び続けていたんだと思う。
間もなく、私はこの悪夢から覚めることになる。
私が呼んだのは”由羽真くん”だったのか、それとも”悠馬くん”だったのかも分からないまま。
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» はじめまして、コメントありがとうございます！のんびりですがこれからも更新頑張りますので、よろしくお願いします！ (2020年3月10日 21時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続きが気になり過ぎて待ちどうしいです。これからも頑張ってください。 (2020年3月10日 15時) (レス) id: b69d3c39c6 (このIDを非表示/違反報告)
鈴蘭〜すずらん〜(プロフ) - 始めまして。麗乙女のゆううつのパスワードを教えてもらいたいです！ (2020年2月3日 16時) (レス) id: b5347077cc (このIDを非表示/違反報告)
契(プロフ) - 匿名さん» 初めまして。展開は決まっているのですが、野坂さんと花綺更ちゃん、頭脳派という設定の 2名のやりとりをどのようにまとめるかで長く手こずってしまい…！なので体調は万全です！ご心配お掛けして申し訳ありません。これからも楽しんで頂ける作品を目指して頑張ります！ (2019年12月10日 0時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - 初めまして。以前から楽しく拝見させていただいております。しばらく更新が無かったので体調を崩されているのかと心配しておりました…。花綺更さんと野坂さんの今後をハラハラかつワクワクと今後も楽しみにしております…！ (2019年12月8日 5時) (レス) id: dfef9e7ff2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2019年10月6日 8時
