episode49 Side M ページ2
「Aさん」
そっと背後から肩を叩こうとしたのに、指先が触れるその寸前で彼女は此方を振り返った。
少しでも驚かしてやろう。そんな企みが失敗したのは癪だけど、こいつの目に疲労と警戒が色濃く滲んでいたのを確認して、ひっそりとほくそ笑む。
「さっきはそっけなかったのに、私が弱った途端にこうして寄って来るんだ」
「嫌だなぁ、心配だから声を掛けに来ただけですよ」
わざとらしく、そう白々しい言葉を吐いてやる。
試合前、あんな風に言っていた割には前半だけでいっぱいいっぱいみたいだ。これじゃ、ただ口が達者だっただけじゃないか。
「試合前に言ってましたよね、お互いのことを知ろうって。僕のこと、分かりましたか？」
「……完全に分かったとは言えない。でも、あと一歩ってところ。君のこと、ずっと見てたはずなのにな。そういう君はどう？」
「その言葉であなたのことがまたひとつ分かっちゃいました」
想定外のガタに生じているであろう焦りを煽るように、馬鹿みたいに明るい声色と共に距離を詰める。
「ずっと僕を見ていたのに、まだあなたとしては結論まで行きつけてない。それに必死になって、目を使い過ぎたんでしょ？鼻血まで出しちゃって、可哀想に。あなたの目の能力には、負担が伴ってしまうんですね」
こうやって俺に憐れまれるのが気に喰わなくてたまらないらしい、それでも彼女は耐えようと気だるげに目を伏せながら溜息混じりの言い逃れを始める。
「私の目に何らかの能力があることが前提になってるんだ、まだ具体的な証拠もないのに。もし”聡眼”がどこかの名付け親の気まぐれ、字面で選んだだけの異名だったらどうする？そしたら君の推測、一気に破綻するね」
「あははっ、何を今更？苦し紛れにも程がありますって、そんなの。あなたの目が普通じゃないことくらい、もう分かってます」
饒舌だけど、余裕は感じられない物言い。前半でのダメージが響くのだろうか。
ここまで消耗してくれたのは予想外だったけど、都合が良いことに間違いはない。
「悔しいのは分かりますけど往生際が悪いですよ、Aさん。それなら、”アテナの羅針盤”って何のこと？Aさんの目がこの試合でまだ生きる＿＿そう監督が口にした意味は？」
そうとどめを刺してしまえば、ようやく減らず口が縫い閉じられた。
「……聞こえてたんだ、あの話」
噛み締めた唇の閉じ綻びから”あの監督め”と絞り出すような声を漏らす姿に、口元が緩むのを抑えられない。
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三峰 契(プロフ) - かなりさん» はじめまして、コメントありがとうございます！のんびりですがこれからも更新頑張りますので、よろしくお願いします！ (2020年3月10日 21時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
かなり - 続きが気になり過ぎて待ちどうしいです。これからも頑張ってください。 (2020年3月10日 15時) (レス) id: b69d3c39c6 (このIDを非表示/違反報告)
鈴蘭〜すずらん〜(プロフ) - 始めまして。麗乙女のゆううつのパスワードを教えてもらいたいです！ (2020年2月3日 16時) (レス) id: b5347077cc (このIDを非表示/違反報告)
契(プロフ) - 匿名さん» 初めまして。展開は決まっているのですが、野坂さんと花綺更ちゃん、頭脳派という設定の 2名のやりとりをどのようにまとめるかで長く手こずってしまい…！なので体調は万全です！ご心配お掛けして申し訳ありません。これからも楽しんで頂ける作品を目指して頑張ります！ (2019年12月10日 0時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
匿名 - 初めまして。以前から楽しく拝見させていただいております。しばらく更新が無かったので体調を崩されているのかと心配しておりました…。花綺更さんと野坂さんの今後をハラハラかつワクワクと今後も楽しみにしております…！ (2019年12月8日 5時) (レス) id: dfef9e7ff2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：三峰 契 | 作成日時：2019年10月6日 8時
