episode33 ページ33
「怪我は」
「大丈夫です。ただ、少し気疲れが」
体力は温存できたけれど、神経が擦り減る思いだ。強ばった目をほぐそうと、眉間と目頭を人差し指でぐりぐりと刺激する。
鬼道先輩との練習が始まる前に少しでも回復しておこうと再び西蔭さんの部屋を訪問し、お菓子を貰った。
どうにも私は味覚まで鈍いらしい。そんな私に、味覚の中で甘味は1番感じやすい、かつ瞬時にエネルギーに変換できるからと悠馬は何かとお菓子を与えるようになった。
最初は”女の子はみんな甘いもの好きでしょ”だなんて言われていたのかと思っていたけれど、案外考えられているらしい。
食べ過ぎないようにとは注意されていても、何となく『疲れたら甘いものを食べる』という癖が私の中で完成させられてしまったせいで、気掛かりが多いこのところは摂取し過ぎてしまっている。
「……また悠馬か」
サッカーをしていれば切り離せない異名に、日常で自覚と無自覚の間に潜む些細な癖。
悠馬は私の中に、確かな自分の痕跡を残している。だからこうして距離が離れているはずなのに離れている気がしなくて、気なんて抜けたものじゃない。
支配というより、管理されている感覚が付きまとって離れてくれない。
「野坂さんがどうかしたのか」
「まぁ、色々と」
ことり、と目の前に何かの箱が置かれる。
蒸気のアイマスクだ。いかにも事務用といった飾り気のない付箋に、”目は大切にね”と悠馬の達筆な手書き文字。
「何ですか、これ」
「Aが目を押さえ始めたら渡すようにと、野坂さんからだ。ただでさえ感情に揺れやすいんだ、集中や緊迫が過ぎるとまずは目にダメージが来るだろうからと心配していた」
なるほど、と納得。確かにこれは有難い。
しかしそれと同時に”何故私に直接渡すんじゃなくて西蔭さんに預けたんだろう”と一瞬頭を過ぎったけれど、その疑問はすぐに消え去ることになる。
西蔭さんが手にしていたのは、恐らく私には持ち切れない程大きく膨れた旅行用の鞄。
持ち手には花の形をしたキーホルダーが下がっていた。
「……それ、もしかして全部」
「……野坂さんからあんた宛てだ。いかなる状況にも対応してある、と。その想定が過ぎてあんたが持ち切れる重量では無くなったから、俺に預けられた」
部屋に流れた、苦い沈黙。
西蔭さんに対して申し訳ない気持ちで、私はしばらく頭を抱えることになる。
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契(プロフ) - 翡翠さん» 初めまして、第一幕を最後まで読んで頂きありがとうございます！ゆっくりスピンオフの方も進めていきたいですね、本編とは違った雰囲気の3人を書けたらなと思っています！コメントありがとうございました！ (2019年10月6日 8時) (
レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
契(プロフ) - ういさん» 初めまして、第一幕に最後までお付き合い頂きありがとうございました！沢山ある作品の中で、ういさんの楽しみになれていることが作者としてとても嬉しい限りです。お気遣いまで本当にありがとうございます、引き続き更新頑張りますね！コメントありがとうございました！ (2019年10月6日 8時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
契(プロフ) - 裕大@受験生のため低浮上さん» 初めまして、最初から読んで頂きありがとうございます！テレビ電話越しや西蔭さん経由でもあの甘やかしようなので、日本代表合流後は更に！と書いている本人もドキドキしていたりします……！これからもお付き合い頂けたら嬉しいです！コメントありがとうございました！ (2019年10月6日 8時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
契(プロフ) - アオさん» アテナの羅針盤、響きがそっとお気に入りです。笑 第二幕では野坂さんと主人公の出会い、過去の関係、主人公の目が目覚めた過去に少しずつ触れられると思いますので、楽しんで頂けたら嬉しいです！ (2019年10月6日 8時) (レス) id: be32126b2e (このIDを非表示/違反報告)
翡翠(プロフ) - 初めまして！とっても楽しく読ませて貰っています！王帝月載宮スピンオフ楽しみにしてます！ (2019年10月6日 0時) (レス) id: 0bbffb7c2b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：契 | 作成日時：2019年8月16日 12時
