表と裏。Part2【リレー小説】 (ページ36)

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77話メザート・リディはなにもしないページ36

「お嬢様。本当になんにもしないおつもりで？」
　「当たり前だろう。私が干渉する必要はない」
　「そうですか……」

　遡ること数十分前。
　正式ではないが正式に協力してくれるようになったであろう彼女は、いつも通りそこらへんを意味なく徘徊していた。そんな矢先、細く道になっていないような道をふらつきながら歩く少女を目にする。
　上、三階からだが。

　そして、少女から放たれる黒い靄や弾、それに歯向かう少年少女らを見かける。自身よりも先輩だが。
　彼女は無意識ながらにして第一発見者となり、そのまま何もせずにその光景を見続けた。

　今に至る。

　「ジュエル(Jewel)、いずれ私もああなるのか？」
　「不安ですか？」
　「いいや、事実確認だ」
　「そうですか……まぁ、お嬢様なら大丈夫ですよ！なんともありません」

　その言葉が終わると同時に、彼女の右フックが執事の脇腹にヒットする。怨霊である執事から小さな嗚咽が漏れる。
右フックを放った彼女の表情からは小さな憤怒が読み取れ、これ以上の誤魔化しは聞かないと悟った執事は苦悩する。

　「私はそのようなことを聞いていない。世辞などいらん。事実を云え」
　「あー……はい。そうですね、お嬢様もあのようになる可能性はあります」
　「そうか」
　「怖くは？」
　「ないに決まっている」

　下で起きている惨状とは裏腹に、小さな拍手が訪れる。
　さて、これ以上なにもしないのもどうかと思ったのか、彼女は執事に向かって何かを差し出すように命じる。
　執事は一瞬首をかしげようとするが、その瞬間に彼女の左フックが飛んできた故、必死に試行錯誤し、普段愛用している黒いマスケット銃を差し出した。どうやら当たっていたらしく、彼女はご満悦な笑みを僅かに浮かべる。

　彼女は窓から身を乗りだし、闇の底に沈む少女に銃口を向ける。そして執事が必死に止める。

　「お嬢様！？流石にダメです。怒られますよ！」
　「執事の分際で生意気だぞ。これはあの根性なしを戻すためにやっている」
　「どんなDVカウンセラー……ってお嬢様、ダメですって」

　執事の抵抗も虚しく、銃口はいまだ少女に向けられたまま、銃弾が放たれる。刹那、彼女は銃口を真上に向ける。
　それは見事な曲線を描き、靄を貫く。
　これにより、僅かな時間だが靄が晴れ、視界が開かれる。

　－－既に起きた、背の高い少女に起きた事柄は覆られないが

　その後、見事なツンデレっぷりを披露するかのように執事の抵抗を払い除け、三階の窓からアクロバティックに飛び降りてきたのは云うまでもない。
　左手に黒いマスケット銃を抱えていたのも然り。