51話 靄 ページ10
「おい、落ち着け」
僕が腕に血が滲む程爪を立てている事に気付いたミカゲにそう声を掛けられるが
頭が完全に沸騰している僕には全く入って来ない。
「ミカゲ、手ぇ貸して…ね？」
抱えていたミカゲを下ろし、キュロットのポケットのモノ達を掴む。
そして思いっきり腕を振るって投げる。
ソレは玉葱頭の頬スレスレを通って、おーじょちゃんの奥にいるソイツに一直線に飛んで行く。
反射で面前に飛んできたソレを叩き落とし、地面に落ちた残骸を見て驚いていた。
「注、射器…？」
地面に落ちた衝撃で本体が割れ、漏れ出た中身は、床を溶かしながら広がっていく。
全員がそちらに気を取られている隙に、ミカゲに借りた妖力で顔を覆うような黒い靄を作った僕は
コツコツとローファーの底を鳴らしながらおーじょちゃん達に近付いて行く。
そしてほぼ予備動作無しで、ソイツの顔に向かって回し蹴りを放つ。
「何者だ貴様！」
回し蹴りを避けた後も、次々と容赦無く放たれる攻撃を受け流しながらそう怒号を浴びせる。
だが無視を決め込んでいる僕は一言も発さずに攻撃を続ける。
しかし、攻撃の手を休めた一瞬の隙を突かれ、思いっきり左頬を殴られる。
唇の端や、口腔内が切れ、血が出てくる。
脳味噌が揺さぶられる感覚がして、ミカゲからの妖力の放出を止めてしまい顔の靄が消えていった。
「…ぁ…し、シアン…？何故、お前、が」
「あ〜〜〜あっはははは…あ"〜いって…」
相手が僕だと分かった瞬間、あからさまに動揺し始めて一歩ずつ離れていくソイツが
哀れで面白くて、口を開けて笑った。
口の端が痛い。
口の中が血の味がして不快だ。目の前のコイツも、後ろの表の奴らも全部全部。
「いっけないんだぁ〜生徒会長が生徒殴って怪我させるなんて〜」
ソイツが離れた分だけどんどん進んで、距離を縮めていく。
「な、何故お前がここに」
「分かんない」
「…は、？」
「そんなの分かんなぁ〜い！！何で！？何でなんだろうね！？
どうしてなんだろうね！？ねぇ！！不思議だね！？？
教えてよ！！
昔っから物知りだったでしょ！？？」
口元には笑顔が浮かび、話している内に興奮してきて鼻血まで出てくる。
それでも歩みは止めない。
「ねぇねぇ！！」そう叫びながら壁際にまで追い詰める。
「さぁ教えてよ！！！昔みたいにさぁ！！！
ラントにぃ！！！」
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作者名：YSP裏クラブ一同 x他2人 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/my.php
作成日時：2022年8月17日 18時
