57話.深海のように暗く、業火のように熱い ページ16
この水は嫌いだ。
熱いから嫌いだ。
私の云うことを聞かないところも嫌いだ。
私は私が嫌いだ。
この騒音も、爆音も、爆煙も、火も……全てが忌々しい。
私はここから消え去ろう。
私は私ではないのだから。
connect
わたしは寝ているのかな。
何一つとして動かせない腕や足を消えた瞳で捉えたら、わたしは地面に寝っ転がっていることがわかった。
今日は何月?
今日は何日?
思い出せないけど、この匂いはきっと暖炉の中だと思う。
暖炉の中だから、わたしは今かくれんぼをしているのかな。
鬼に見付からないように隠れているからそうだよね。
なんだかいつもと違う暖炉に嫌気の二文字が頭に灯しても、足は止まって動かない。
隠れないとだもんね。
火が点いてるようにとっても熱いのに、真っ暗で泳いでいるみたいな感覚がする。
ここから逃げたくても、わたしは隠れなくちゃだから動いちゃダメなんだよね。
でも大丈夫、きっとお兄ちゃんが見付けてくれる。
だからわたしは此処にいるの。
お兄ちゃんが来るまでいなくちゃいけないの。
意地悪したみたいにずっといれば、お兄ちゃんは絶対に来てくれるもん。
「__ル! __デル__!」
ほら、来てくれた。
海の底みたいに暗くて、怖くて、ずっと燃える炎のように熱いなにかをかき分けて、私の顔を見る。
__えへへ、遂に見付かっちゃった?
「クソッ! なんだこれ、剥がせない……!」
何度もかき分けても、わたしに纏わりつく墨は前々取れなくて、わたしもお兄ちゃんも苦しんじゃう。
でもね、わたしはお兄ちゃんが来てくれただけで充分なんだよ。
これからも、かくれんぼはいっぱいいっぱいできるもん。
わたしはそのまんま、楽しい遊びを続けるのでした。
「……しっ、かりしろエーデル!」
誰かの声。
私は開くことを諦めた重い目蓋を開ける。
ボヤけ歪む視界に写ったのは、白髪の男。
何故か、酷く焦った阿呆のような面を一片に浮かべている。
漸く意識を得たと云うのに、私はまた掴めたはずの意識を手放した。
未来でも定めるかのような赤い布や、深海のように暗く、業火のように熱いナニかは私の傍から姿を消した。
それは酷く心地好く、意識を手放した今でも安堵できる程だ。
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作者名:YSP裏クラブ一同 x他2人 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/my.php
作成日時:2022年8月17日 18時