表と裏。【リレー小説】 (ページ46)

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「さぁタツノコ、浮き輪ちゃんと持ったかい？」

「だいじょぶ、もった」

「体調は？」

「ばっちぐー」

「もし溺れそうになったら？」

「おーきなこえで『たすけて〜』」

仲間たちの楽しげな声を聴きながら、砂浜で点検。

海は初めて……では無いのだが体が小さく、強力な妖術もお世辞にも上手とは言えないタツノコにとって海は危険だらけだ。浅い所で遊ぶ予定ではあるが、備えあれば憂いなし。念入りに点検を行う。

「海に入る前に点検か。良い心掛けだな」

「おお、ハクヤくん」

背後から声をかけてきたのは龍川ハクヤくん。3年生の先輩で、実は怨霊だったりする。加えて……

「はくやくん！！」

「はは、相変わらずだな。タツノコは」

タツノコの憧れの存在でもある。普段は大人しく静かなタツノコが急にパワフルになるほどハクヤくんのことが好きなようだ。同じ龍の怨霊(妖怪)だからか、親近感が湧くのだろう。

「あの、はくやくん。……うみ、これてうれし？」

「？あぁ、勿論だ」

「……！！！」

ハクヤくんのその言葉を聞いたタツノコは、ヒュッと私の後ろに隠れてしまった。

それを見て多少驚いたのか目を見開くハクヤくん。

「あぁ、心配しないでくれたまえ。タツノコは少々照れてるだけさ。嬉しかったんだろう？ハクヤくんが自分と同じ気持ちだと知れて」

「……うん」

そう尋ねれば素直に頷くタツノコ。

その様子を見てハクヤくんは一瞬きょと、とした後ふっと柔らかく微笑んだ。裏ＹＳＰクラブメンバー以外にはあまり見せないと聞く微笑みはなんとも優しげなものだった。

さて、そろそろ入ろうと立ち上がって周りを見渡す。

パラソルの下で潮風を楽しむ者、波打ち際で戯れる者、海の中に入り泳いでいる者……

みんな思い思いに海を満喫しているようだ。

「じゃあ俺は見回りに戻る。くれぐれも溺れないように」

そう言い残しハクヤくんは元いた場所に戻って行った。

「さぁ、そろそろ入ろうか」

「うん、はいろ」

言葉を交わし、海へと踏み出す。

鼻腔をくすぐる潮風、体をこれでもかと照りつける太陽。

普段の悩みなど全て忘れて今は楽しもう、そう思ったのだった。

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