俺とカレカノごっこしよ【黒】

25.あまりに君の涙が愛おしくて、ふれた唇 ページ26

「なんでもありませんから」
「彼氏にも話せないの？」

もうさぁ、今日のAのあの表情見たらあの場で抱きしめたくなってめっちゃ我慢したじゃん。と目黒さんが家についた瞬間に眉を下げて笑って私を抱きしめた。

モコが自分も抱きしめて欲しい、仲間に入れて！と足元で甘えた声をあげているから目黒さんが痺れを切らして

「しょうがないな」

と抱き上げて、モコを挟んで抱きしめてくれた。



きっと目黒さんの家に彼女として上がって、玄関先で抱きしめられるなんて四日後には無いんだ。




この腕の力も、逞しい胸板も、目黒さんの香りに包まれる優しい感情も。




私は忘れられない気がする。





「…A、泣いてんじゃん…」
「違います」
泣いてません、と否定するけど、涙を拭う目黒さんの指も、顔を覗き込む目黒さんの表情も優しすぎて好きすぎて辛い。


マネージャーなのに、何をやってるんだ。
立場を弁えろ。私。

涙をぐっと堪えてるのに、ポロポロ勝手に落ちてモコの頭が濡れていく。

「モコ、ごめんね」
目黒さんに見られたくなくて俯いてモコに目線を向けて頭を撫でれば
「泣く理由教えて？」
と目黒さんがまた聞いて頬を優しく撫でるから
「…ごめんなさい」
と思わず声を漏らして

目黒さんが頬を撫でていた手がら逃げたくて

苦しくて

首を横に振って俯きながら、一歩下がれば



目黒さんが離れようとした私を引き寄せて



唇が重なった。



優しく触れて、そっと離れた唇に驚いて胸板を押して、


私は玄関を飛び出した。





目黒さんの唇の感触が残った自分の唇を拭って、急いで車に乗ってエンジンをかけた。



携帯が鳴っている。

目黒さんだと思う。



もしかしたら地下駐車場に追いかけてきてしまうかもしれないから、アクセルを踏んで急いで目黒さんのマンションを離れた。




ごっこ遊びなのに、キスは反則だ。

好きじゃないなら、遊びで触れないで欲しい。


苦しくて辛い。


心臓が五月蝿い。



目黒さんが遊びで唇にはキスをしない人だと思っていたし、そういう事は彼女にしかしないと思っていたのに。



なんで。




目黒さんからの着信にも、スマホを見る気もしなくて

目黒さんを余計忘れられなくなりそうで怖くて忘れたくて泣いた。




「…どうしよ」
泣きはらして起きた朝。


怠すぎて熱を測れば高熱で。


会社に電話して、また目を閉じた。


(あまりに君の涙が愛おしくて、ふれた唇)

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