「恋」っていうから「愛」に来た【鬼滅の刃】

酔い。 ページ34

『た、炭治郎様…？こんな夜更けに…』

竈門「A」

『な、名前を…！？いや、本当にどうされたのですか？』

月が雲の後ろで慎ましく微笑んでいた

はぁ、とため息を漏らしているのは星の声か宴の声か。

酒臭い香りは夜風によって薄まって

カクテルのような魅惑を放っていた

炭治郎の頰は赤く染まり、呼吸は荒々しく

普段着崩すことのない隊服は

大きく胸元が開いており、ちらつく鎖骨が色っぽい

優しさを含んだ瞳はいつもとは違う

獣の獰猛さをもっていたものだから

お嬢様はいつもの数倍顔を真っ赤にさせて

慌てふためくのである

白の裾で頰を覆い隠そうとする姿がいじらしい

名前、そんな色っぽく呼ばれたら

心臓が持たなくなって、今日中に死んでしまう

お嬢様の頭はそんなことばかり。

竈門「髪…」

『す、すみません！寝起きなもので整っていなくて…』

寝起きもなにも、夜も深まった頃である

起きている方が珍しい時刻

お嬢様は眠りの世界を散歩していたのだ

そんな頃に自分の名前を呼ぶ声が聞こえてきたものだから

渋々、文句でも言うつもりで起き上がったのである

どうしても無視できなかったのは

その声があまりにも、好きな人を呼ぶような甘え声に

聞こえてしまったからで。

まさか、炭治郎だったとは夢にも思わなかったのである

眠気も、怒りも、アルコールで溶かされて消えた

竈門「…いつもと違って、どきどきする」

『は！？！？いや、え！？！？』

寝起きの好きな女の破壊力が如何程のものなのか

化粧をしなくても珠のように美しい顔立ちは

見惚れてしまうどころか、自分だけが見れればいいと思う

瞳が朧気で拙い言葉は可愛いと思わざるしてどうするのか。

寝巻き姿が新鮮だから、どきどきしてなにが悪い

こんな、可愛い奴に惚れて

我ながら馬鹿みたいだ

なんて炭治郎は思いながらその髪を撫でるのである

昔は可愛くなくても自分に寄り添ってくれる人を

妻に迎えたいと思っていたのに

実際に惚れ込んだ相手は美女で

男からもモテていて、家柄もよくて。

自分じゃ釣り合わない理由の方が多い。なんて。

竈門「A」

たまらなくなって名前を呼んでは

その小さな体に体重をかけた炭治郎

ふらふらな視界のなかで

彼女に身を預けたのである

急に肩に顔を埋められて、甘えたように擦り付けられれば

お嬢様はパニックを起こしてしまうのである

ドユコト？ドユコト？

問うてみても答えはでなかった

次行きます

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