「恋」っていうから「愛」に来た【鬼滅の刃】

好き、すき。 ページ31

『す、き……？』

竈門「あぁ！す、好きだ！」

顔を真っ赤にさせながら

信じられないくらいの大声で愛を叫ぶ男がいただろうか

涙で裾を濡らしながらも可愛らしい美貌を持つ女を放っておくだろうか

小さな肩はさらに縮こまってしまって

消え入るような泣き声が心に刺さる

こんなに辛そうに涙を流すのは

きっとそれだけ自分が、

と炭治郎は激しい後悔に見舞われた

好き、ってこんなに勇気がいるのか

毎日毎日言ってしまえば

自分の心は溶けてしまうかもしれない

それでもどんなに頑張っても

毎日毎日懲りずに振られ、冷たくされたら？

炭治郎はこの紫陽花の女が

梅雨の冷たさを持った目をした姿を想像して

心が酷く痛むのを覚えた

『ほんと、ほんと？』

竈門「本当だ」

『うそ？うそじゃないの』

竈門「うそじゃない」

お嬢様の手は昔のように柔らかくはなかった

それは炭治郎に好かれるために

必死になって家事をして失敗して

沢山傷を作って、かさぶたができて…を

途方もなく繰り返したからである

でも、体の表面がどんだけ硬くなろうとも

お嬢様の心はいつだって

最初に頰を叩かれた時から

失恋を経験した時からボロボロと泣いていたんだろう

その唇から出る言葉は

悲壮な泣き声に似ていた

『私、ワガママよ？』

竈門「ワガママだから好きになったんじゃないか」

『家事もできないのよ？』

竈門「二人でやればいいだけだろ」

『諦め悪くて、しつこいよ？』

竈門「そういう奴のほうが好きだ」

あのね、私ね

と幼い口調で話し続ける彼女は

まるで欠点を述べて愛を確かめているようで。

健気だな、ってずっと前から思ってたことを

素直な心が頷いて優しく引き寄せる

急に近くなった牡丹の香りに

胸の動機が抑えられず堪らなく好きになる

お嬢様はこの香りを、この距離をずっと前から

一目見た時から焦がれていたのだから

さらにみっともなく泣き声をあげるのである

『どうしようもなく炭治郎様が好きなのよ？』

竈門「ずっと前から知ってるぞ」

『何回やっても諦められなかったの』

竈門「うん」

『なんでこんなに好きになっちゃったの』

私、こんな惨めに泣きたいわけじゃないの。

大金持ち捕まえてもっとワガママ言うつもりだったの

いつからなの？どうしてなの？

なんでこんな、どうしようもなくなっちゃったの。

ねぇ、炭治郎様

もう一度だけ…

竈門「何度だって言うよ」

君のことが好きなんだ。

あぁ、春が実った香りがする

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