本気で抱きつぶされる話【鬼滅の刃】

霞みがかった夢を見た。 ページ27

分かる人には分かるネタバレがあります

すみません。

『旦那さん、旦那さん』

時透「…どうしたの」

『昔の夢を見ました。出会った頃の…』

昼下がり、奥さんは春眠の誘惑に勝てず

そのまろやかな髪を床に散らばせながら

静かに寝ていた。

心地良さそうに寝るものだから

旦那さんは額に口づけを落として

彼女のの髪を撫でていたのだが。

つぅ、と静かに流れた涙をみて

悪夢を見ているのだと。

急いで起こしたものの全く起きず

ただひたすら魘されているだけであった

『私…あの時、あの時に…。あなたに助けてもらわなかったら…死んで……』

奥さんは案外、静かに泣く人だ

気づかれないようにしとしと泣く

その椿の咲いた瞳は梅雨に入ってしまって

とめどなく頰を流れては消える

必死に手で拭っていたものの

旦那さんには受け止められない悲しみがあった

時透「…それは夢だよ。大丈夫」

『分かってます、分かってますけど………』

あなたが死んでしまう夢を見たんです

ひたすらに泣きながら

奥さんは必死に旦那さんの背中に手を回した

『私、初恋はあなたです』

時透「そう。僕も初恋は君かな」

『あなたがいなかったら私、恋なんてしなかったと思います』

多分、そんなことはないのだろう

もし無一郎に会えずとも彼女は誰かに恋をする

そのことを奥さんは分かっているのだ

それが余計に悲しくて、こんなにも好きなのに

悪夢を見て、弱気になって泣いてしまうのが悔しくて

ついには声を上げて幼子のように泣くのだ

『私、はしたない声をあげるのは貴方の前だけです』

時透「僕も、みっともなく求めるのは君だけだ」

『振られても追いかけ回すのも貴方だけです』

『ねぇ、もっと好きって言ってください』

『きっと私ばかり、バカになっちゃったみたいに貴方のことが好きなんです』

好きだ、好きだという姿は慎ましい

相当な悪夢だったのだろう

必死に顔を真っ赤にさせながら

唇にキスを落とす姿はさながら映画のワンシーンのようで

無一郎もこれには弱くて必死に拙いキスを受け止めた

あぁ、可愛いなぁ。なんて押し倒したい欲望に耐えながら。

時透「ねぇ、これ以上されると抱き潰しちゃうかも
しれないよ」

『…抱き潰しちゃダメなんですか？』

奥さん、渾身の誘い文句で

無一郎の心を殺してみせた

もう黄昏にサヨナラを告げる時だ

甘い声がひとつ聞こえた。









『運命の人に会ってみたかったな』

椿が泣きつくように炭治郎に言った

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