この幸せがいつまでも ページ20
にゃぁ
掠れた鳴き声が足元から聞こえた
素足に触れるガサガサの毛並みから
野良猫かなと思わせられた
こんなボロギヌみたいな私の元に来るあたり
世の中の渡り方を分かってないなと
もっと普通の人に声をかけなよとも思った
春の宮「やぁ猫さん」
膝を曲げて地面に顔を近づける
上から眺められるのは苦痛だろう
私もよく知ってる
背丈の問題もさる事ながら
あの眼つきも嫌いだ
上から目線というものは
苦痛とかそういう問題じゃない
心が折れて全てに絶望するんだ
だから私は絶対に万物に対して
目線を合わせる
やっぱり目線が合うと安心するからね
春の宮「ガリガリなんだね、すぐ何か持って来るよ」
驚く程骨格が露わになった猫さんに
心がズキズキと痛みつつも
足早に部屋に駆けつける
出来れば部屋に連れ込んで
一緒にあっためて寝ておきたいが
私の近くはダイナマイトより危険だからな
気ままな猫さんがあの場所で
くつろいでくれている事を望もう
「まぁ見てA様だわ」
「はぁ彼女を見るなんてとんでもない不運だな」
そうだね
私も本当に不運だ
私はみんなと同じように
ただご飯を食べて夜には寝て
清潔のために風呂に入って
毎日毎日ただただ生きているだけなのに
一体何が違うのだろうか
普通の人間として生まれたおんなじ動物じゃないか
春の宮「一体私が何をしたんだよ！！！」
「いきなりなんなのよ」
「ついにどうかしてしまったか」
「どうしてあのような子供になってしまったのか」
全身でも受け止められない罵詈雑言に
耐えられなくてでも死ぬ事さえ出来なくて
代わりに涙となって溢れ出た
逃げるように部屋に駆け込み
鏡に映った野良猫よりガリガリの
醜い自分をひと睨みしながら
冷蔵庫を開ける
もう私しかいない春の宮家が
食卓を囲む事もないが
私がこのまま餓死するわけにもいかない
という一応の配慮によって
冷蔵庫の食料は定期的に補給される
確か牛乳がまだ残っていた筈だ
ガバッと牛乳を掻っ攫い野良猫の元へ
駆けつける
春の宮「ごめんね待たせちゃって」
風を掻き分けて走る
なるべく早く来たかいかそれとも
私の幸運のおかげかまだ猫さんは
移動せずに私の事を待っていていてくれた
なんだか待っていてくれることに対する
むず痒さを感じて無性に嬉しくなった
春の宮「ほらおのみ」
手に溢れんばかりの牛乳を注いで飲ませた
あまりにも勢いよく飲むもんで
こしょばかった
文字数の問題で次行きます
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作者名：ゆきぽん
| 作成日時：2018年3月26日 22時
