兄は気になる。 ページ5
最近、弟の様子がおかしい。
「なぁ、頼むよジイちゃん!!」
「この間やったばかりだろう」
オヤツを買う分の小銭は祖父の言う通り持たされたバイク柄のがま口に収められているし、おもちゃだって俺が買ってやっている。
なのに、やたらと小遣いをせがむのだ。
もう一つ。あれだけ退屈だから嫌だ、と朝っぱらから子供らしからぬ力で暴れていた万次郎が、自ら通学するようになった。朝の弱さばかりは改善されておらず、遅刻こそ免れていないが。
「万次郎、どうしたんだ?理由を話さないでジイちゃんが許す筈ないだろ」
目線を合わせるように屈み、弟を促す。半分以上は俺の興味だ。
む、と口をへの字に曲げ黙り込む万次郎に、もう一押しか?と狡い手を使う事にした。
「ちゃんと納得出来る説明したら、俺が五百円やる」
「……マジで?」
「おう」
小さな体をもじもじとする万次郎は、どう切り出すか悩んでいるようだ。頬はりんごのように紅い。
お?これはまさか、もしかして……。
「好きな子でも出来たか?」
「っ!?ち、違ぇーよ!!Aはそんなんじゃ、」
「……図星か!!へぇ………ぐはっ!!!」
何とも可愛い理由を言い当てれば、全く可愛くない力で蹴られた。
「ってぇー……で?何で小遣い?」
この弟に限って集られるなんて事はないだろう。
聞けば、意中のAちゃんは日本に来たばかりの転校生らしい。帰国子女、というやつだろう。万次郎は、その子を放課後にたい焼き屋や駄菓子屋やらに連れ回しているのだとか。
「Aちゃんは小遣い貰ってねーのか?」
「……ううん、Aはいつも自分で払おうとすんだ。でも、女に出させるとかダセーじゃん。それに、」
あいつも親いないらしいんだ、だから……。
俯きがちに放った万次郎は、普段の暴君の成りも潜ませ、心優しい、一丁前に恋する男子に成長していた。
「そうか。今回は約束通り俺がカンパしてやる。でもな、Aちゃんだってお前が毎回金出して、気遣っちまってるかもしんねーぞ」
「?人の金で食うたい焼きは一番美味ぇだろ」
前言撤回、万次郎は万次郎だった。そもそもはお前の金じゃねーし。
つい苦く笑いながら、弟の丸っこい頭に手を乗せた。
「ジイちゃんとエマには内緒な」
まだ友達が少ないならうちに連れて来てやれ。と続ければ、はにかみながら頷く万次郎は俺が渡した五百円玉をがま口に突っ込み自室に戻って行った。
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作者名:カーター千之助 x他1人 | 作成日時:2023年5月6日 4時