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目の前の地獄絵図とも言えよう光景に目を見開き立ち尽くす俺を奮い立たせたのは、幼い女の子だった。
「真一郎くん、救急車!!!」
叫びながら、万次郎から離した春千夜と圭介を武臣に委ねたAは、返り血を浴びた弟に駆け出し抱き寄せた。
「万次郎!!聞こえる!?」
「……」
「佐野万次郎!!!」
「っ、………あ……あ、…… A、俺………っ」
Aは救急車を呼び終えた俺が万次郎に駆け寄ると、縁側で休まされる圭介を確認し、未だ狂ったように笑う春千夜に寄り、その名を呼び続けている。
「万次郎、何があった?」
「……シンイチロー。春千夜が……俺のコンコルド……壊した、って……それから、それ、から…… A、がいて………、あれ……」
「覚えてない、のか」
「何か……俺、真っ黒、になって……春千夜を……」
は、としたように万次郎が腰掛ける春千夜に目を向けると同時に俺も振り向くと、Aが春千夜の傷口に武臣から渡されたのだろうタオルを当てながら、小さな左手で背中を摩っていた。
春千夜もまた、我に返ったらしい。
「春千夜も落ち着いたみたいだな、救急車もすぐ来る。圭介はびっくりしたんだろ、気絶してるだけだ」
「……」
当事者ながら事態を把握出来ていないのか、春千夜ーーいや、Aをぼんやりと見る万次郎は返事をしない。
「ハル、いっぱい痛いね」
「………う、」
「今はまず、ケガを治そう。それから考えようね」
喋らなくて良いよ、と春千夜の手を握るAは、大きな瞳に溜まった涙を堪えているようだ。
今自分が泣いたら、当人たちは更に混乱すると理解しているからだろう。
Aは本当に小学四年生かと疑いたくなるほどに強く賢く、何より優しい子だ。
圭介が目を覚ましたと同時、救急車が到着した。
運ばれた春千夜には実兄妹の武臣と千咒が伴い、俺と万次郎と圭介、Aは追ってタクシーで病院まで急いだ。
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作者名:カーター千之助 x他1人 | 作成日時:2023年5月6日 4時