壊れるのは簡単で。 ページ11
「ごめんなさい」
角度九十度。綺麗に頭を下げるAを見たのは何度目だろうか。
こっちこそごめんね。と、まさに泣き出しそうな男子を見送ったAは眉を下げた。
「圭ちゃん……?ハルもいるんでしょー!」
そう。俺と春千夜はここ二ヶ月と少しで、記憶する限り恐らく八回目のコクハク現場に遭遇した。マイキー曰くAは学校でもコクハクされているらしいから、総数はもっと多いだろう。
今回は、放課後いつも自然と集まる公園に向かう途中、男子に呼び止められたAを見かけた俺が「あっ」と声を上げたせいでバレたらしい。
「今の七小の奴?」
「うん、六年生の先輩だって」
「何でそんなんと知り合いなんだよ」
春千夜が聞けば、話した事もないと首を横に振るA。ヒトメボレってやつか?
それより、最近いつもAを引っ張って下校している我らが暴君の姿がない。
「マイキーは?」
「喧嘩してるって聞いて、嬉しそうに飛んで行っちゃった」
人の事は言えないが、またかと言うか……いや、やっぱり俺も参加したかった。
「A一人にしたらどうせ告白されるか、ナンパされるのに」
不器用ながら面倒見が良い春千夜は、「誘拐でもされたらどうすんだよ」とマイキー本人には言えないだろう愚痴を溢している。
「ここに来たら、ハルも圭ちゃんもいるから安全かなって」
だが、Aに微笑まれれば、俺も春千夜も何も言えなくなってしまうのだ。
そこに「悪ぃ!!」とマイキーが合流した。Aは既に慣れたように、マイキーの髪と服に付いた砂をハンカチで落としていく。
「今日は何すんだ?マイキー」
「お前らに見せたいもんがあんだ!!」
当然のようにAの手を引くマイキーを先頭に佐野家に向かえば、リビングに真一郎くんと武臣くん、そして千咒がいた。
"見せたいもん"を取りに部屋まで走るマイキーの後を、俺と春千夜が追う。そしてマイキーが棚から丁寧に下ろしたのはコンコルドのプラモデルだ。
「「かっけー!!」」
つい春千夜と声を上げたこの数十分後、事件が起こるとは俺たちの誰もが思っていなかっただろう。
ーーー血だらけの顔で笑う春千夜をぞっとするほど冷たく見下ろすマイキー。
俺が止めようにも、止められなかった。
明らかに異様な光景に誰よりも早く気付き、駆け付けたAを視認し安堵したのだろうか。
俺の意識はそこで途切れた。
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作者名:カーター千之助 x他1人 | 作成日時:2023年5月6日 4時