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お手洗いの鏡には少しやつれながら真っ赤な顔をした自分が写っていて、思わず零れる愚痴。
『ちょっと、ペース早かったかなぁ…』
ついに曲が完成してあとはレコーディングを待つのみといった日、作曲家さんに誘われて飲みにきたのだがそれが良くなかった。
向こうはザルらしく、しかも自分のペースを強要してくるから私は自分の許容範囲を超えたアルコールを摂取している。
お酒は嫌いじゃないしこういうのはデビュー時からあったから慣れっこだったが、周りに助けてくれる人がいないというのは中々厳しいのだなと痛感した。
いつまでもここにいる訳にはいかないし、ふうと息を吐いた後少し重たい足取りでお手洗いを出たほんの数歩、
「あれ?Aさん?」
『え…?中島さんに、菊池さん?』
ばったり。その表現がぴたりと当てはまる出会い方をしたのは彼ら。えー!偶然!とはしゃぐ中島さんと声でけぇよと戒める菊池さんに驚きが止まらない。
「Aさんもここでお食事ですか?」
『はい。そういうお二人も?』
「時間が合ったからスタッフと何人かで来てるんすよ」
お二人とも少し頬が上気しているも受け答えはしっかりしていた。
お酒…強いのかな、なんてぼんやりとした頭で考えていたらいきなり中島さんが顔を近付けてきた。
私の視界いっぱいに潤んだ瞳の綺麗な人が、う、心臓が…
「Aさん大丈夫ですか?」
『ひぇ?』
「なんか顔色良くないですよ。飲み過ぎじゃないですか?」
近い、と発しようとした声は戸惑いと図星で変な声になる。中島さんの言葉に菊池さんも私を見て、眉をひそめた。
顔は赤いと自分でも認識してたけどまさかそこまで見破られるとは…でも本当のこと言えるわけないから、愛想笑いをする。
『そうかもしれないですねぇ。でも平気です。ありがとうございます』
「…Aさん誰と飲んでるんすか?」
菊池さんに聞かれて嘘を言う訳にもいかず正直に話すと中島さんと一瞬だけ視線を交える。
「それ、もしだったら俺らも合流してもいいですか?」
「今回の曲の打ち上げなら挨拶もしないとだしねぇ〜〜」
『え、え?』
困惑している私なんかお構いなしにトントン拍子に話が進むから困惑の声しか発することが出来ない。
部屋どこですか?と優しく微笑んで促す中島さんに反射的に溢せば俺先行ってる〜〜としっかりとした足取りで歩いていく。
そして私は菊池さんに連れられて反対の方へと引っ張られるのだった。
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カノープス - にこさん» にこさんありがとうございます!頑張っていこうと思いますのでのんびり読んでくださると嬉しいです…! (2021年5月7日 19時) (レス) id: e30a93ed77 (このIDを非表示/違反報告)
にこ(プロフ) - 楽しく読ませていただいてます!すごくこれからの展開が楽しみです!応援してます!! (2021年5月4日 0時) (レス) id: fd9c2932e6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:カノープス | 作成日時:2021年4月7日 21時