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「Aさんは僕が責任持って家まで送り届けますので」
“そんな丁寧に〜適当にその辺の道端に置き捨てていいっすよ!”
風磨さんは律儀に頭を下げてくれたのに顔を真っ赤にしてるメンバーが軽口を叩いているので申し訳ない。
あとで見てなさいよ、と心の中で悪態をついて呼んでくれたタクシーに乗り込んだ。
すやすやと隣で眠る勝利さんの横顔が窓の外を流れるネオンに照らされれば、それは一枚の絵画のようだった。
「珍しいですよ。勝利がこんなになるの」
『そうなんですか?』
「メンバーで飲んでる時もちゃんと自分の規定量を分かってるんで。緊張して酔いが回りやすかったってのもあると思いますけど、楽しかったんだと思いますよ」
気持ち良く酔うとすぐ眠くなってしまう酔い方らしく、助手席から首だけ覗かせた風磨さんは勝利さんのことを慈しみに溢れた目で見ながら教えてくれた。
とくとく、収まったはずの心臓が少しずつ脈拍が上がっていくのを感じ、あまりにも綺麗なその光景から目を逸らした。
程なくして着いた勝利さん宅。殆ど引きずるようにタクシーから下ろし、風磨さんが手慣れたように進んでいくのを必死についていく。
到着した玄関を開けて足を踏み入れば聞こえた甲高い声。
音源である下の方に視線を向ければきゅるきゅると瞳を輝かせて見上げてくる可愛い子と目があった。
「チャイ〜お迎えなんて偉いな〜。あ、Aさん知ってます?この子」
『勝利さんの愛娘ですよね。チャイちゃん』
私がそう呼べば答えるようにもう一声。見知らぬ人間が入ってきたから警戒されるかと思ったけど、人懐っこい性格みたいで気にせずご主人様の回りを心配そうに往復している。
うろうろ、伺うように見上げてくる顔はどこか似ているなぁと感じていたら、風磨さんが部屋にあがってきたのを見て少し距離を取った。
「Aさんそこの扉開けたら寝室なんで先行って貰えます?俺、冷蔵庫から水持ってくんで」
『…え!?いやいや私流石にお部屋は入れませんよ!?』
「もう玄関入ってるからいいですよ。それにここじゃ剥がすこと難しいんで入って貰えると助かります」
私の腰に回ってる腕を見ながら勝利には俺から後で話すんで、と残して颯爽と消えていった背中を呆然と見送った。
私が先導する!と言いたげに目の前でしっぽをパタパタ振るチャイちゃんと全体重を私に預けた勝利さんを交互に見つめ、心で何度も謝りながら未知の領域に足を踏み入れた。
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カノープス - にこさん» にこさんありがとうございます!頑張っていこうと思いますのでのんびり読んでくださると嬉しいです…! (2021年5月7日 19時) (レス) id: e30a93ed77 (このIDを非表示/違反報告)
にこ(プロフ) - 楽しく読ませていただいてます!すごくこれからの展開が楽しみです!応援してます!! (2021年5月4日 0時) (レス) id: fd9c2932e6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:カノープス | 作成日時:2021年4月7日 21時