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『待って!客出しSE流さないでください!!』
舞台袖にはけた瞬間に私は叫んだ。熱気に包まれてる客席には聞こえていないと思うが、それを気にしてる余裕なんて私にはなかった。
いきなりの行動にスタッフは勿論メンバーも呆気としている。
“え、Aどうした?”
『お願いがあるんです。もう一曲だけやらせてくれませんか!』
所謂ダブルアンコール。他のバンドでも滅多に行われないし私達自身もまだやったことはない。
来てくれてるお客さんの帰りの誘導、バンドセットの撤去、ライブハウスによっては音を出していい制限時間まである。
それを加味した上でのセットリストな訳だからこういうイレギュラーなことは避けるようにしていた。けど、今日は、
『無理いってるのも私の我が儘なのも承知です。でも、歌いたいんです!やらせてくれませんか!!』
ここまで足を運んでくれた、配信で見てくれてるファンの方に私達も楽しくて楽しくて仕方がなかったこと、それをもっと伝えたい。
そして、私は彼に、歌いたい。あんなに楽しみにしてくれて、楽しんでくれている彼にこの思いを伝えたい。
“…我が儘なんて、誰も思ってないが?”
勢い良く下げた頭の上からぽつり、メンバーがそう呟いたのが降ってきた。頭を上げれば満面の笑みで私を見ている。
“今からもう一曲やってもライブハウスの使用時間と撤去、間に合いますか?”
“はい!その辺のことは全て私達スタッフに任せてください”
“よっしゃ!じゃあもう一曲いくぞ!”
バタバタと動き出した人の波を呆然と見つめる。メンバーはまだ頭を下げた体勢でいた私の肩を掴み、起き上がらせた。
“言ったからには最高のをみせるぞ?いいか?”
『…当たり前!!』
“生意気〜〜”
けらけらと茶化したメンバーはまた明るくなり歓声が上がったステージに飲み込まれにいった。
深く息を吸って、ゆっくり吐き出す。表情を引き締め私もその後に続けば割れんばかりの拍手に自然と笑顔が溢れていた。
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カノープス - にこさん» にこさんありがとうございます!頑張っていこうと思いますのでのんびり読んでくださると嬉しいです…! (2021年5月7日 19時) (レス) id: e30a93ed77 (このIDを非表示/違反報告)
にこ(プロフ) - 楽しく読ませていただいてます!すごくこれからの展開が楽しみです!応援してます!! (2021年5月4日 0時) (レス) id: fd9c2932e6 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:カノープス | 作成日時:2021年4月7日 21時