Music43 ページ44
カミュは暫く俺を見つめていた。
その切れ長のクリスタルのような瞳に覗き込まれる。
俺の目から一体何を視ているのか。きっとそれはカミュにしか分かり得ないことだ。
「…ふん、お前のその威勢の良さに免じて、この件に関しては目を瞑ってやる」
「賢明だな。一時、停戦協定といこうじゃないか」
「但し、少しでも不審な行動を取ってみろ。その時には、今度こそ容赦はしないぞ。それと、メンバーの前で二度とあの名を口にするな。今の俺は『カミュ』だ。覚えておけ」
「分かった、よく肝に銘じておくよ」
そして構えていたステッキを下ろすと、カミュは颯爽と部屋から出て行った。
俺は、ついさっきまでカミュがいた場所に倒れ込むようにして座って
「あー怖かった!!あーーー危なかった!!!」
今の気持ちを大声で吐き出した。
「なんだよカミュ、めちゃくちゃ怖いじゃん!!テレビで見るようなアイドルスマイル、欠片も感じないよ!?あの極端なキャラ、もうもはや二重人格って言っても過言じゃないよね、うん。死ぬかと思った、マジで死ぬかと思った。俺の人生2回目、1日も経たずに終了しちまうかと思った。やばいよ、歌の王子様あまりに個性的すぎるだろ!?」
ひと通り暴れ回ると、気が済んだ。
これは、断じて発狂したとかそういう訳ではない。
自我が崩壊したとかそういうのでもない。
もしかしたら、俺の今あるこの『俺』としての感情も、もう断片しか残っていない音羽の『人間らしい想い』も、いつしかただのデータとして完全に削除されてしまうんじゃないか。
無機質なつまらない歌しか歌えない、本当の意味での『ロボット』になってしまうんじゃないか。
恐ろしい未来が、俺の頭を過ぎったからだった。
無論、そうなることは俺が許さない。
そんな最悪な未来、俺が変えてやる。
きっとその為に、俺はここに来たんだ。
カミュの魔法のせいか、僅かに低くなった部屋の気温を肌で数値的に感じながら、俺はQUARTET NIGHTの楽屋を後にした。
強い決意を、胸に秘めて。
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作者名:蒼乃 | 作成日時:2020年6月10日 21時