Music36 ページ37
「とにかく、今日君が倒れたのは故障じゃなくてただの“歌いすぎ”。仕事ある日は不用意に歌うなって言ってあったでしょ？自分の体のこと、もっと考えてよね」
そうか…目覚めたあの時、イケボになってたのが嬉しくて何曲も歌ったせいでこうなった、ってことか。
それから身体に妙な倦怠感があったってのも確かだ。
自業自得だよ俺、しっかりしろ。
「…でも、何かおかしいとは朝から思ってたんだ。今まで一人称はずっと“僕”だった君が唐突に“俺”って言い出したり、ボクのことも“藍”って呼んでたのに、急に“美風”になってたから。やっと理解したよ。プログラムやメモリーの不具合なら、また博士に頼んでメンテナンスしてもらわなきゃ」
博士も変な所で抜けてるんだから…と愚痴をこぼす美風を横目で見ながら、俺はまた溜め息を吐いた。
まだ身体は動かしづらいけど、歩くくらいならもう出来そうだ。
ゆっくりと足を床につけ、力を入れて立ち上がる。
長い間横になっていたせいで、重力がいつもより強く俺を地へと押し付けているように思えた。
「収録再開……って、できるか？」
「……A、記憶喪失の副作用か何かで、本当にどこかおかしくなったんじゃないの？今のその再起動し切ってない身体で収録なんて無理に決まってるでしょ。大人しく今日は学園に戻って静養すること。言っとくけどこれ、命令だから。分かったらさっさと帰って」
分かった、ごめん、俺が悪かった。
もっと身の程を弁えます。
そんなに簡単に一蹴されるとは思わなかったよ。
いいじゃん、ちょっとやらかした分取り戻したいな〜なんて思ってもさ……(拗ね)
美風、めちゃくちゃ饒舌になってるし。
「そんな面白くない冗談言えるくらいならもう大丈夫だね。ボクはまだ仕事があるから、先に帰ってて。ボクが帰るまで、絶対勝手なことはしないこと。いいね」
はい、分かりました美風様。
てかその言い方……もう母親に近い気がする、なんて思うのは俺だけだろうか。
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作者名：蒼乃 | 作成日時：2020年6月10日 21時
