Music31 ページ32
俺は驚いて、言葉も出なかった。
「………。」
何も言わずに、ただ俺の首に手を回して自分側に引き寄せる美風。
さっきの柔らかい感覚が、今度は身体全体に………って変態発言は程々にしておいてだな。
えっそうなの?美風と音羽って『そういう』関係なの?
BのLな感じなの?違うよね??
誰か違うって言ッテクレ………(カタコト)
「………まり………」
「…美風?」
声は、震えていた。
その絞り出すような声に、俺は「大丈夫か」と言いかけて閉口する。
首に回された手に力が籠って、更にぎゅっと抱きとめられる。
「あんまり………心配かけないでよ、A」
「…!!」
そして、今度は絶句した。
そうだ。
美風は誰よりも俺を心配してくれていたのに。
……俺は、何も考えていなかった。
いや、考えることを放棄していたんだ。
いくら転生してきた身とはいえ、この「音羽A」という人間の人生を勝手にめちゃくちゃにしていいわけが無い。
そんな道理があってたまるか、って話だ。
俺はこの人間に生まれ変わった『責任』がある。
いつ元の体に戻るのか、または消えてしまうのか…それは俺にも分からない。
だけどそれまでは、俺は何を言われようが「音羽A」なんだ。
「音羽A」として、俺が今出来ることを精一杯やる。
こんな簡単なこと…どうして今まで気づかなかったのだろう。
「ごめん………ごめんな、美風」
今にも嗚咽し出しそうな美風の頭をそっと撫でて、俺はそう零した。
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作者名:蒼乃 | 作成日時:2020年6月10日 21時